自信をつけよう。最近そういう言葉をよく耳にするような気がする。自分の心とは別の所から無理やり体の中を引っ張っていくような、この言葉が嫌いだ。世の中は、自信をつけることを進めてくるけど、自信をつける事だけが、幸せへの道じゃないと思う。

わたしは自分に自信がない。
それは容姿や、思考や、頭の良さや、全てのことに対してそうで、悲しい気持ちになった時、自信のなさがより一層、わたしを悲しませた。

自分なんてと下を向いて歩いた

いつもまわりに何か思われているんじゃないかとビクビクしていた。

電車待ちのホームに響く女子高生の笑い声は怖くて冷や汗が出たし、他人の才能に触れるのが怖くて小説を読めなかったこともある。
街に出ればそこにいるのは、わたしより容姿も思考もステキな人達。すぐに恥ずかしくなって、自分なんてと下を向いて歩いた。

言葉を詰まらせてしまった時、ミスをしてしまった時、そういう生きていれば絶対にあるような事でさえ切り替えられずに、何かあるたび思い出して恥ずかしさで顔が熱くなった。
悲しみは、わたしを苦しくさせる。
抜け出したいのに抜け出せない暗くて寂しい海の底だ。一度落ちると体の中の黒い水が抜けるまで上がってこれない。

悲しい気持ちになるのはもうこりごり、そんな事を思えないくらい悲しみは牙を向けて襲いかかる。そんな心を埋めるために、少しでも楽しくなれるように、わたしはわたしを精一杯着飾るようになった。

イラスト:かきぬま

悲しいから着飾った

自信をつけようと思ってそうしたわけではなかった。そんなこと微塵も考えてなかったし、自信をつけるという事自体、そんなに簡単な事じゃなかった。悲しいから着飾った。悲しいからそうしただけだった。

それでも、爪に塗ったブラックのマニキュアを見れば強くなった気になれたし、憧れのお店で買った服は着ているだけで気分が良かった。イヤホンから聞こえるカッコいい音楽は、イケてる自分を演出してくれた。

そうしていくうちに、着飾ることで自分に厚みが付いてきているんじゃないかと思うようになった。着飾ってきたものを全て取り払ったとしても、体の中に染み込まれているものは抜けない。それが、自信をつける事だと言われてしまえばそうなのかもしれないけど、感覚的な部分では違った。

それで自信がついたわけじゃなかったし、胸を張って歩くことが出来たわけじゃなかった。
ふとした瞬間に降り注ぐ悲しみや、そこから生まれる思考は、ブラックのマニキュアを塗った手でも拭えなかった。

深い悲しみの中に入っていったっていい

人は、誰だって自信がない所はあるし、悲しい気持ちになる事もある。
きづかないうちに自分の心を押さえつけて、そう思ってしまった自分を否定していたんじゃないかと思う。自信がなくて悲しい気持ちを認めていなかったから、その気持ちから抜け出せなかった。

ズブズブと深い悲しみの中に入っていったっていいんだ。辛いけど、自信という明るさを求めるよりそっちの方が合っていると思った。
辛いなら自信をつけなきゃ。そう言う漠然とした言葉に押し潰されて、もっと辛くなるよりいい。

いつだって他人の状況が分かるこの世界で、自分の心の悲鳴を聞き入れることは簡単なことじゃない。
他の人の方が大変だって。自信のない心はそんな事を思って悲しみを責めてしまうけど、
大声で泣いてしまいたくなった時は、泣いてしまってもいいって。認めてあげないといけない。

悲しい感情はわたしの力になってくれる

悲しくて自信のない心は、いろんなモノをくれた。これからもきっと、いや、これから生きていく上で絶対、自信がなくて悲しい思いをする事があるだろうけど、それが沢山の経験を生むんだと思う。

自信がなくたっていい。そう思って生きていくのもありだ。
着飾ってきたものたちのおかげで、いろんな想いをした。その中には悲しい気持ちも勿論あるけれど、それらが要らなかったわけじゃない。それでまた着飾って自分になるものが沢山あるって分かったから。

そうして過ごしてきて、いくつもの悲しみと自信のなさと対面してきた。これから先もこの辛さを除け者にするつもりはない。
いつかの悲しい感情は、この自信のない性格は、絶対わたしの力になってくれるから。

ペンネーム : かきぬま
 Twitter:@oisigyunyuchan