キャピキャピじゃなくてもいい。
そう、キャピキャピしていない自分を許せたのは、さみしくて始めたネット上のチャットで話しただけの、会ったこともない男の子との出会いがあったからだ。

私は小さい頃から少しだけおとなしい。
新しい集団に馴染むのにとても時間がかかる。習い事のバレエでも、おしゃべり相手を見つけるのにとても苦労していたのを覚えている。

大学生になった私は、変わらずに大人しかった。クラスという所属集団がなく、2~3人の友達とだけ会話を交わして過ぎていく毎日。私の所属欲求は満たされず、勉強しなければいけないという強迫観念も大学受験を経てなくなり、私は、「宙ぶらりん」になった。

勉強もそんなにしてない、お金もそんなに稼いでない、所属場所で活躍するような機会もない…。
そして、「彼氏」もいない。

私には何の価値があるのだろう…誰に求められて生きているのだろう…そんな気分だった。

暇になった私は、あるSNSで、ネット上に友達を作ることを試みた。ネットなら、元気に見せることもできるし、「おとなしい私」 を隠すことができる…。

始めてからしばらくすると、私には「友達」が増えた。たまに知らない人と電話をして話すことだってあった。
なんだ、私って、友達作れるじゃん。随分と自信が出た。

SNSで出会った彼も「おとなしい」けど

そして、その中でも特に話が合う男の子がいた。名前は「ヒロくん」。ほんとの名前なのか嘘なのか、それさえも全くわからない。でも、バレエをやっているという共通の趣味から話が弾み、会ったことがないからこそなんでも話せる相手になった。そして、大学の話や家庭の話、いろんな話を通して、こんなに深く話ができる人がこの世界に隠れているということに驚いた…。

私は、だんだん、だんだんと、恋心に似た、憧れの感情が自分の中に生まれていることを知った。

会ったこともない、本名さえ知らない、でも、確かにこの日本に存在している一人の人間への…触れさえもしない「恋」 だった。

ヒロ君は自分のことを「おとなしい」と言った。おとなしいから、友達が少ない、と言った。そこまでは私と同じだった。でも、その先が違った。

ヒロ君は決して自分を否定しなかった。

「おとなしい」自分はそれで良く、「おとなしい」自分と合わない人とは無理に合わせなくてもいいじゃん、という考え方で、一人でなんでもしてしまう、そんな人だった。

「一人じゃないと感じられないことがあるんだよ」
「周りからチヤホヤされているような人よりも、一人で見立たないけど頑張っている人の方が素敵だ」

そう言って、堂々と一人の自分を紹介してくれた。

おとなしい自分が嫌いで、キャピキャピしてないと、友達も彼氏もできないじゃん、と、自分を大否定していた自分とは大きく違っていた。

おとなしい人を好きになってくれる人がこの世にいるんだ…。キャピキャピしてなくても私はこれで大丈夫なんだ…!と感じた。

連絡手段がなくなっても

彼は、大学院受験を機に、このSNSを辞めてしまった。当然、私たちの連絡手段はない。
もう話せなくなってしまった。

自分を愛し始め、無理にキャピキャピしなくてもいいやと思えた頃から随分と日々が生きやすくなった。

特に勉強もバイトも、その他のことでも、頑張っている、と言えるようなものはなかったけど、私は好きな読書を続け、バレエのレッスンに参加し、一人暮らしの生活を普通にした。

そうやって、当たり前に何事にも力を入れない普通の日々を送っている自分も、

なんかいいじゃん

そう思えた。

そして、今、私には彼氏がいる。
すっかり一人でいることが楽になっておとなしい自分を好きになった時、今の彼に出会った。

「おとなしい子が、俺は好き」

幻のようなヒロ君のように今の彼は、優しく私を抱きしめた。

ペンネーム:さえりいな。

本が好きです。
美味しいご飯を食べられること、入浴剤を入れた温かいお風呂に入ること、お布団でぐっすり眠ること…
これができれば、幸せです。