家族は、みんな仲良く一緒に暮らすのが一番……そんなふうに思っている方も多いのではないでしょうか?私も、つい最近まではそう考えていました。
しかし、あることがきっかけで、少しずつその考えが変わるようになりました。
広いマンションで、憧れの一人暮らしが始まったけれど
「おじいちゃんが脳梗塞で倒れた。おばあちゃんも認知症が進んでいて、ひとりでは手続きできないから、その代わりに私が手続きに行ってくる」
ひと月前、母がそう言って家を出ました。母が向かった先は、私が住んでいる名古屋から遠く離れた佐賀。これまで生活の大半を母親に頼っていたので、とても不安になりました。
「俺も両親が心配になってきた。ちょっと様子見てくる」
ある日、父はそう言って、隣の県にある自分の実家に戻ってしまいました。
広いマンションで、憧れの一人暮らし。
自分の好きな時間に起きて、風呂に入って、テレビを見ることができる。
「やったあ~自由だ、最高だ!」ひとりきりになった直後は、嬉しい気持ちでいっぱいでしたが、だんだん日が経つにつれ寂しくなってきました。
風邪を引き、父と母がいることのありがたさを実感した
心が弱っているせいなのか、私は風邪を引いてしまいました。39℃まで熱が上がりました。いつもなら、父と母のどちらかがベッドまで氷枕を持ってきてくれるのに、その日はひとりで氷枕を持って行かなければなりませんでした。身体の熱さに必死に耐えながら、枕に氷を入れ、氷枕を作りました。そして朦朧とした意識のなか、自分の部屋に布団を敷きました。
こんな時、誰か一人でも傍にいてくれたら・・・。
その時、初めて父と母がいることのありがたさを実感しました。
顔を合わせれば「私のケーキ食べたでしょ!」「足が臭い」なんていがみあっていたけれど、父と母が居るからこそ、喧嘩ができるのだと気付きました。
1ケ月後、父が家に戻って来ました。
久しぶりに会った父は、少し痩せてくたびれた表情を浮かべていました。
私と同じように、家族と離れて暮らすことでいつも一緒にいる人の大切さに気付いたようでした。
2ケ月後、母が家に戻って来ました。
「自分の両親と、じっくり話すことができた。もうちょっと実家に居ても良かったかも」そう言う母の表情はとても寂しそうでした。きっと、父と私が傍にいなくて悲しかったのでしょう。その証拠に、台所で私と父が大好きなすき焼き鍋を作ってくれました。
家族はみんな仲良く一緒に暮らさなくちゃいけない、なんてことはない
現在、私は月に2~3日、東京のゲストハウスに宿泊しています。
父は、週に2日実家に帰って祖父母の買い物を手伝っています。
母は、月に一週間ほど実家に帰って祖父母の介護をしています。
時々私が、父と母の実家に行って祖父母の介護を手伝うこともあります。
ずっと一緒に暮らすのではなく、離れて暮らすことで、ほど良い距離感で接することができるようになりました。口喧嘩をする回数も、前よりグッと減りました。「家族はみんな同じ屋根の下で生活しなくてはいけない」という幻想に囚われていましたが、バラバラで生活するのも、良い関係を築くために必要だと気付きました。父が脳梗塞で倒れたのは予想外の辛い出来事でしたが、そのことがきっかけで、当たり前だと思い込んでいた家族のカタチを見つめ直すことができました。
家族はみんな仲良く一緒に暮らさなくちゃいけない。
かつての私のように、そんな幻想に囚われている人へ。
ほどよい距離感を保つために、離れて暮らす。
そんな新しい家族のカタチ、提案します。