4度の転職で見えた私の適性。でもぴかぴかOLへの憧れは消えない

仕事帰りに友人と落ち合ってお酒を飲むと、いつも少し焦って、帰り道で少し惨めになる。
現れる彼女たちはいつもきちんとしたオフィスカジュアル。整えられた髪にこざっぱりして洗練されたファッション、控え目でも品のあるメイク。対して私は社会人になってから、ずっとTシャツにジーンズ。髪はひっつめでリュックを背負っている。おしゃれが必要な会社で働くことができなかったから。
①小さな広告会社でコピーライターに
文学の研究を続けたかったし、教師にもなりたかった。友人たちのようないわゆる「バリキャリ」にもなりたかった。でもそれは同時には叶わない。なにになるべきか悩みに悩んで挫けているうちに、一年が経っていて「これじゃ本当に先がなくなる」と、結局小さな広告会社にコピーライターとして勤めることを選んだ。無理矢理な選択でも、言葉を扱う仕事はとても魅力的に思えた。
でもなんだかしっくりこない。直属の先輩とも馬が合わない。社員のほとんどが女性の会社だったが、狭いオフィスは毎日クライアントに対する文句と愚痴で溢れていた。
窒息しそうだ。心が枯れる。逃げなきゃ。
半年も経たずに退職し、次の会社に移ることにした。
②アダルトコンテンツ制作会社アルバイト
次の務め先はアダルトコンテンツ制作会社。
もともとアルバイトとして出入りしていた会社だったためか、安心して勤めることができ、いろいろなバッググラウンドを持った人たちが真摯に働く会社を心から好きだと思っていた。
部署が違えど、すれ違えば「おう! 元気か」と声をかけてくれる。体調を崩してしばらく欠勤すると社長が「お前もう大丈夫なのか?」と気にかけてくれる。中途採用の私を同期として扱ってくれる新卒のみんな。
でも辞めてしまった。軽いADHD(注意欠陥多動性障害)のある私には、正確さを求められる事務職が務まらず、ミスを重ねて叱責されるうちに心がダウンしたのだ。
病院にも通ったけれど間に合わなかった。悔しさと寂しさがさらに心にのしかかってくる。
③友人の紹介で出版社へ
しばらく休養したあと、これまた友人の紹介で出版社に勤めることになる。しかし心の疲れはまだ取れていなかったのか、やりたい仕事は山とあるのに、会社に行けなくなってまた退職した。辞める日に社長がかけてくれた、その才能を社会に還元しろ、という言葉は、いまも脳内を漂う小さな光だ。
評価うんぬんは置いておいて、どの仕事も1年以上続かず、すっかり根無し草になってしまった。生活のために早く食い扶持をみつけなければと、うさんくさく見られるだろう職務経歴書と履歴書を携えて人材派遣会社をハシゴした。その時の記憶はほとんどない。
新宿の高層ビル群の中で1日飲まず食わずだったことに気づき、スーツに身を包んで行き交う人たちの中、ドーナツを食べながら歩いたことだけをくっきりと覚えている。
好きなことからも逃げてしまった。ここなら頑張れると思った所でも挫折してしまった。心と身体が追いつかない。新しい仕事も見つけられない。毎日くる不採用の電話とメール。
私はどうすればいいんだろう。
周りがキャリアアップのための転職について語る中、Tシャツとジーンズの内側で、なんの形にもなれないゲル状の私がのたうちまわる。
助かりたい、形が欲しい、置いていかないで。
泣きながら人間社会の外側を歩いているような気分だった。
④知り合いの知り合いの編集アルバイト
しかしある日突然、希望のない長くて暗いトンネルに、光が差した。
知り合いの知り合いから
「仕事を手伝ってほしいんだけど、いまから事務所に来られますか」という連絡がきたのだ。二つ返事で引き受けて、今もアルバイトとしてそこに通っている。欠勤もほぼない。
毎日通い、仕事が増えるうちに、ゲル状の私は少しづつ編集者の形になろうとしていた。
転職を重ねる上で、身をもって、向き不向きと心身がついていける物事を知ったのかもしれない。いままで「遅い」「淡々とこなして」と言われてきた原因である「ひとつのことにこだわってのめり込んでしまう性格」が、編集という形のモノづくりに活きている気がする。
限られた時間の中だとしても、ひとつひとつの作品と向き合い、よりよいものへと追求することに、こんなにもやりがいがあるなんて。もちろん昔から読書や文章を書くことが好きなことも大きく影響しているだろう。
ただ、職が定まらないことは決して褒められたことではないし、私ですらこの生き方が正しいのかはわからない。
だから、やっぱりぴかぴかにおしゃれをしたOLの友達は眩しい。きっと休憩時間は綺麗なビルの中の清掃が行き届いた化粧室で、百貨店で買った口紅を塗り直すんだろうな。でも身綺麗にしてかしこまっていることができないのだから仕方がない。
今日も事務所を靴下でペタペタ歩き、椅子の上で足を崩して、じーっと原稿を読んだ。上司の話でげらげら笑った。
見た目はかっこ悪いし、肩書きはアルバイトだけれど、この生活はなかなか気に入っている。友人たちに抱くコンプレックスはやっぱりまだまだ消えないけれど、前よりは上手く付き合っていけるような気がする。
ペンネーム:スズキコトハ
社会をぷらぷらゆらゆらしている。
好きなことは調べもの。
死ぬまで学生でいたいな。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。