「あなたが女になったのはいつですか」
と聞かれたら、少し考えてから
「初めて恋人ができた時です」
というだろう。

実際のところは自我が芽生えた時には、既に自分は女の子だと思っていたし、その後身体が発達してきても、それを女性ならではの変化として受け入れてきた。女の心と身体をもって社会生活を送ってきたつもりだった。

女の子らしくなることを放棄した

しかし、顔は可愛くないし、骨太でガタイもいい。おしゃれをしているわけでもない。いつもジャージ。化粧なんてもってのほか。見た目だけならまだしも、ガサツで大雑把。

高校時代、学年でモテていた子たちの必須アイテムは、ピンクのカーディガン、巻き髪、控えめだけどきらきらしたふたえまぶた。ちょっとした恥じらいと、男の子に向ける「私あなたのこと嫌いじゃないよ?」と告げるまなざし。

そんなの無理。可愛いくてモテる子たちの猿真似をしたところで、うまくいくわけがない。傷つくのは決定事項。だから私は、大声で笑うひょうきん者として過ごし、女の子だけが上がることを許されるステージからわざと遠ざかった。

現実、そのままでも楽しく暮らせていた。けれど、友達の色恋沙汰を私だけが知らない、ということはしょっちゅうあった。

私は恋と呼べるほどちゃんとした恋をしたことがないからそこに加われない。「女の子じゃないと踏み込めない領域」があるのだ、ということをたしかに感じていたのだ。

そのまま大学に進学し、学習塾でアルバイトを始める。男所帯の中で働いてもやっぱり私が恋愛の当事者になることはなかった。スカートスーツを着てヒールを履き、薄くではあるが化粧をしていても、だ。

私にも気になる人ができた「これはきっと恋なのだ」

しかし転機は突然やってくる。そんな私にも気になる人ができたのだ。
温厚だけれどちょっと変わっている、頭が良くて、話の上手い人。

最初は「面白い人だな」くらいの印象だったのが、次第に相手のことを考える時間が増え、「話すにも共通点がないな」「私みたいなガハハ系は嫌いだろう」と相手の気持ちまで予想するようになった。

けれど「いや、私が恋などするはずがない。そもそも恋をすること自体を知らないのだから、この気持ちに安易に恋というラベルを貼るのは危険だ」と、無理矢理にその人へ続いた気持ちの糸をばつんと断ち切って、バタバタとした日常生活に戻っていく。

でも、そんなことを繰り返すうちに糸の強度は増して、強く太くなり、紐になって、最後はその辺ハサミなんかじゃ切れない綱になってしまった。

ここまでくると観念するしかない。
「私はこの人のことが好きなのだ、これはきっと恋なのだ」

途端、声をかけるにも緊張するようになってしまった。たとえズタボロに振られても好意は知ってほしかった。どうした私。あんなに傷つくことから逃げていたのに。

そこから紆余曲折を経て、なんと相手から告白されてお付き合いすることになる。「本当は小さくて華奢な人が好きなんだろう」「妥協して私と付き合うに違いない」と疑い、一方で「髪型は? いまはベリーショートだけどそれでいいの?」「スカートなんて持ってないや」「お化粧は?」「言葉遣いは?」「これからいろいろすることになるんだよね、覚悟できるかな」……と、その人の好みや、これから私たちに起こる様々を休む暇なく考えた。

女の子像に一歩近づいた、気がした

とめどないときめきと相手のことで頭を悩ませる。可愛くなろうとしている。恋をすることで晴れて「女の子になる」という長年の夢を叶えたのだ。

女の子は、恋は楽しかった。いままで知らなかった悩みが生まれ、ほわほわと相手のことを思い、可愛い子たちの身なりや仕草を真似る。でも「可愛いくなったね」といわれることはない。なんできらきらさせたまぶたをちゃんと見てくれないの?

そこで思い出すのはみんなで飲んだ帰り道、告白された夜の嬉しくも恥ずかしい、とぎれとぎれの言葉だ。

「いつも一生懸命で、不器用なのが傍目にもわかるけれど、なんとか進む姿を見ていた。あるかないかわからない正しさと理想を、常に見つめて持っていることは俺にはできない。でも君はそうやって生きてる」

何を話していいのかわからず、でもすぐに帰ることもできなかった。突然の告白にパニックになった私は、ぶらぶら夜道を歩きながら「私のどこをいいと思ってくれたんですか」と思い切って訊いてみたのだった。ショックを受ける言葉が飛び出すかもしれない、一種の賭け。

拍子抜けした。巻き髪もきらきらまぶたも必要なかったのだ。自分ではかっこ悪いと思っいた部分をまっすぐ見つめてくれていた。報われたダサさは大粒の涙になって流れた。

本当の女の子の恋は、お互いの気持ちのありようを見つめて実るものだった。
思えば私も、その人の内面に惹かれていたのだっけ。

私がなりたかった女の子って…?

「相手好みの可愛い女の子になる」という都合のいい言葉に寄りかかって、なにも考えず、ただただ己を相手仕様にカスタムする、というのはただの甘えだ。勇気を振り絞りながら、私のスタンスを押し付けない程度に伝えて足並みを揃えていく。

大変だけどちょっと心地いい、そういった類のもの。

気持ちを通い合わせる個人として相手と向き合い、強く立ち続ける。それが私の恋愛であり、これから目指すことになる女の子の姿だった。

ペンネーム:スズキコトハ

ADHD・その他に悩まされながら社会をぷらぷらゆらゆらしている。
好きなことは調べもの。
死ぬまで学生でいたいな。
@kotoha_126