文章が上手だね、と言われてもまったく嬉しくない。
私がどれくらい才能のなさに苦しんでいるのか、泣きながら怒りながら、でも言葉でしか自分のことを表せないから、なんとか筆を進めていることを知っているのか。
その場では、謙遜もすればお礼もいうし、他人からの評価をもらえるほどではあるのか、と安心することもある。
けれど私はいつだって自分の書くものに満足できない。

私の母と妹はデザイナー。妹は美大を出て、普通の四年制大学を出たのは私だけ。小さい頃からクリエイティビティ溢れた人に囲まれて育ち、私もモノを作る人になるんだと思っていた。
でもそうはいかなかった。
「妹の書く文章は気持ちがこもってて面白いけど、あんたの文章は堅くてつまんない」
母からの言葉だった。当時小学生。
それから作文を書く機会は何度もあったけれど、その度に「いま面白くないものを書いてるんだ」と思いながら、褒められるお手本を量産していた。
いい成績をつけてもらったり、コンクールに出してもらったりしたけれど、なんだかな、という気持ちは拭えなかった。その間に妹の創作のセンスや才能はめきめきと頭角を現していった。

書ける人でありたいと強く願うからこそ、些細な言葉を忘れることができない

「あなたの書く文章は整ってるけど薄っぺらい」
高校2年生の時、国語教師に言われた言葉だ。
多感な時期の私をぶっ潰すには十分すぎた。じゃあどうやって私は私の気持ちを表せばいいんだよ。
それから私の書く文章はどんどん長くなった。たくさん言葉を連ねればいつか本心が出てくると思ったから。
「長けりゃいいってもんじゃないよ」
突っぱねられた。

自分しか読まない日記すら疑うようになる。「自分の本当の気持ちを理解できているのか」「目の前の文章は本音を載せた言葉で構成されているのだろうか」「これは日記を成立させるための、都合のいい言葉、嘘の言葉なんじゃないのか」

私が書くことに対して特段思い入れがなければ、ここまで思い詰めることはないだろう。ここまで悩んでしまうのは、そこにプライドがあるから。才能の有無に悩み、他人を羨み、稚拙さを恥じるのは、少なからずそこに自信を持ちたい、秀でていたいという思いがあるから。
書く人でありたいと強く願うからこそ、些細な言葉を忘れることができないし、自分の吐き出した言葉を常に疑う。でも書くことで救われたい、評価されたい、嘘をつきたくない、本当を表したい。一度そう思ってしまった以上もうやめられない。

創作活動をしている友人たちと話すとき、置いていかれている気持ちになる

家族以外にも私の周りには創作活動をしている人が多い。小説や音楽、脚本、芝居。そういう人が熱を持って自分の活動について語るとき、置いていかれている気持ちになるのだ。
自分の生み出すものをより良いものにするために、何冊も本を読み、練習し、そして私と同様に生みの苦しみに泣いている。
しかしその涙の濃度は圧倒的に友人たちの方が高いだろう。
私がうじうじしている間に、もう手放せないところまできてしまったものへ果敢に挑み続けている。心に正しくあるものを目指している。

そういう人たちとの会話はとても楽しい。内容に重みがあって、ずっと真剣でいられる。
でも話していればすぐにわかる。なんとなく感じ取ってしまう「こちらのレベルまで下げてくれている」感覚。開いてる差の大きさ。下手に「すごいね」なんて言えない気迫。
大切に生み育てたものに対する不用意な褒め言葉は意味なんて持たない。ただのノイズなんだ、時と場合によってはざっくりとその人を切り裂き、傷つけてしまうのだと気づかされる。
ひと度「きっと私と過ごしたことは時間の無駄だったのだろう」と思うと、食事にも誘えなくなってしまう。この期に及んでまだビビって自分を守ろうとする。
「私なんかのために時間を割いてもらっちゃ……」という言葉の陰に隠れる自分は心底醜い。スポイルされ続けた者の末路だ。

言葉へのコンプレックスに向き合う過程を、誰かに見てほしい

探せば他にもあるのかもしれない。でも気がついたとき私の手に残る武器は脆いものだけれど、言葉だけだった。
それならば、言葉でもって、自分の本当を、喜怒哀楽を、疑問を、意見を、愛を述べたいのならば、もっと身を削れよ、晒して、傷ついて、暴れて、時たま包まれて知ることがあるだろうよ。皆に並ぶ何者かになりたいのなら必死でしがみつけよ。
その瞬間を記して叫べ。迷っているうちに悩みも私も絶えず形を変えてしまうから。内から外へ出してしまえば、さっきの私はもういない。そうやってひとつ進むのだ。
自我の断片、恥、強烈な愛、その他とりとめなくぐちゃっとしたものを、ぐちゃっとしたまま外へ出す勇気。常にベストではいられないことを認める覚悟を決めろ。
己のプライドを背負って言葉へ向き合う私を見てほしい。隠れて自分を甘やかすことはもうやめた。

ペンネーム:スズキコトハ

ADHD・その他に悩まされながら社会をぷらぷらゆらゆらしている。
好きなことは調べもの。死ぬまで学生でいたいな。
Twitter: @kotoha_126