「スクールカースト」という言葉がある。
同じ学校に通学し、同じクラスに所属する者同士であるのにもかかわらず、容姿や性格、友達の数によって、自然的に序列される。

いわゆる“イケてる”子たちが所属する「上位層」、その取り巻き的な存在である「中位層」、“イケてない”子や、いじめの対象にもなり得る「下位層」……。
スクールカーストの階級は、容姿の良し悪し、性格の明暗、所属する部活などによって決まってくる。華やかな性格をしていて、リーダーシップのある運動部の子は「上位層」、性格は控え目で目立つことが苦手な文化部の子は「下位層」というように序列される傾向があると感じる。

中学校へ入学して、美術部へ入部した。クラス内で仲良くしていた友達も文化部の子が多く、性格もおとなしい方であった私のカーストは、「下位層」だった。

好意を寄せるのも「おこがましい」

当時、私には好きな男の子がいた。だが彼は、私が付き合うどころか、好意を寄せるのもおこがましいと感じる、「上位層」の人だった。そのため私は、彼本人はおろか、友人誰一人にさえ自分の初恋を打ち明けたことがない。

彼と同じクラスに、私の幼馴染の男の子がいた。幼馴染は彼と仲が良かった。
ある日、幼馴染が私に告げた。
「あいつ、○○のこと可愛いって言ってたよ」

私の心中を知らない幼馴染からしてみれば、取り留めもない一言に過ぎない。だが、私にとっては、天地がひっくり返るほどに衝撃的で、嬉しいことだった。彼が、私のことを話題にするなんて。それも、「可愛い」と思っているなんて。

幼馴染から伝え聞いた一言を何度も反芻しては、浮かれていた。

バスの中でぶつかってきた彼

校外学習先に向かうバスに乗っている時の出来事だった。40人のクラスメイトが押し込められた車内で、私は、中央部に立っていた。

バスが発車し、暫くすると、後方からコソコソとした話し声と笑い声が聞こえてきた。後方には「上位層」の男の子たちがたむろしていて、その中には彼の姿もあった。一瞬、彼と目が合って、ドキリとする。恥ずかしくなって、すぐに前へ向き直した。
次の瞬間、バスが大きく揺れた。そのとき、後方にいた彼が、揺れと共に私にぶつかって来たのだ。恥ずかしくも、嬉しい気持ちがあった。

しかし、嬉しいと思ったのは最初だけだった。バスが揺れる度に、彼は私にぶつかって来た。彼は、「上位層」の男の子たちに押され、わざと私にぶつけられていたのだ。

彼は俯いていて、男の子たちの顔には嘲笑が浮かべられていた。意味が分からなかった。もしかして、私が彼を好きだと気づかれているのかもしれないと思った。
込み上げてくる涙を必死にこらえて、何度もぶつかって来る彼に、気付いていないふりをした。その日を境に、「上位層」の男の子たちや、彼に、冷やかしを言って、からかわれることが多くなった。私は、それを必死に無視し続けた。

成人の日、同窓会で再会した彼

蓋をされて、生まれて来ることのなかった恋心は、どうなってしまうのか。
私の初恋は、7年後の成人の日、中学校の同窓会で初めて蓋を開けられた。中学時代は「下位層」の私であったが、緊張しながらも同窓会に参加したのだ。

同窓会の会場へ入った瞬間、彼の姿をすぐに見つけた。当然、話しかける勇気なんて持ち合わせていなかった。しかし数十分後、彼が私に話しかけてきた。1時間以上も、取り留めもない会話をした。
彼とこんなにも長い時間話したのは初めてだったし、何より、会話ができている自分に驚いた。数年ぶりに高鳴ってしまう胸中、「どうして?」と疑心が募る。

「中学生の時の自分は、調子に乗り過ぎていた。高校、大学とどんどん落ち着いていった」と彼は言った。

会場内の、再会を喜ぶ同級生たちの喧騒が遠のいて、ノイズとなった。
彼と喋り慣れない私の口は、とんでもない言葉を放った。

「私、君のこと、すごく嫌いだった」

彼は一瞬、泣きそうな顔をしていたと思う。「ごめんって、子どもだったんだよ、俺」

全然違うと思った。こんなことを言いたかったのではなかった。本当は、話しかけてもらえて嬉しかった。

生まれる機会を逃してしまった私の気持ちは、あまりにも長い間、閉じ込められていたせいで、思ってもみない形に曲折してしまったのだ。私は、なんて可愛くないのだろうと思った。彼と、高校や大学で、出会いたかった。そうしたら、彼に「可愛い」と言ってもらえる自分のままでいられたかもしれない。

「スクールカースト」のどの階級に属していたとしても、当事者である少年・少女には、それぞれのプライドがある。それは時に、自分の立ち位置を守るために、自身の心を傷付けてしまう。

数年経って、彼に「あの時はごめん」と言われたとしても、当時誰にも打ち上げられずにいた私の気持ちは、決して報われることはない。私が彼に「嫌い」と言ってしまったのは、快諾することであの時苦しかった自分の気持ちを無きものにしたくなかったのかもしれない。彼が好きだったという事実以上に、あの時の自分を守ってあげたいと思ったからなのかもしれない。

ペンネーム:えてちゃん

大学4年生。夏生まれなので、本名にも「夏」がついている。ペンネームはスタジオジブリ作品『コクリコ坂から』の「海ちゃん」が渾名で「メルちゃん」と呼ばれているのを真似ている。エテはフランス語で夏のこと。本を読むこと、絵を描くこと、文章を書くことが好き。子どもの頃の夢は漫画家だった。今でも表現媒体へ憧れ続けている。