新卒採用の就職活動の記憶は、確かにあるのだけどすぐに見つけられない探し物みたいな感じだ。捨てればいいのに、結局どこかに残っている。

新卒採用を受けたのは、「働きたい企業・業界があるから」などという理由では決してなかった。続けていた演劇を辞めるつもりはなかったし、文章を書く以上の充実感を他の何かで得られる気がしなかったので、それらを軸に据えたまま人生を考えた。その時に「一度も社会人経験がないまま、社会批判をテーマにした作品を作っても説得力がないなあ」と思い、「じゃあ一回社会人やってみようかな」と就活を始めた。

そんな考えだったので、案の定多くの企業からお祈りをいただいた。「仕事第一にがんばります!」と嘘でも言った方がいいのか。でも、嘘ついてまで会社に入らなきゃいけないのか。
悩みながらも、その頃は「自分が悪いんだろう」と思っていた。しかし、思い返すと許せない場面もちらほらある。特に理不尽を感じたことを紹介したい。

社長に媚売ったもん勝ち面接

あるお茶会社の最終面接は、社長と役員3名に対し就活生7名の集団面接だった。「まずは自己紹介かな」と思った矢先、社長が開口一番こう言った。
「さあ、君たちはこの会社に何をしてくれるんだね?」

突然の挑戦的な発言に、就活生側に困惑した空気が流れる。続いて社長が「ほら、発言した人が勝ちだよ」と言う。すると、1人の女の子が手を挙げ、「私は、御社のためにできる限りのことをしたいと思っています!」と言った。それに対し社長は「残業や休日出勤が多くなっても頑張れる?」と質問する。その子は「もちろんです」と答える。私は「まじか」と思った。こんなことを言ってまで、私たちは受からねばならないのだろうか。怒りとやるせなさがぐちゃぐちゃに湧き上がってくる。

社長が「君はおもしろい子だねえ」と言ったのを合図に、他の子たちも手を挙げ、次々に「御社のために身を削ります発言」をし始めた。その普通でない状況に「嘘だろ…」と思った。こんな風に言わなければいけない状況に悲しくなり、周りの焦りを感じて胸がつまる。しかし、あの頃はみんな必死だったのだ。私は案の定落ちた。受かった人のその後の健闘を祈っている。

舞台の制作会社を受けた時のこと。代表含む面接官3名に対し就活生5名の面接だった。採用担当者が「全体で15分程度の面接予定で、1人ずつ質問します」とアナウンスすると、突然代表がそれを妨げ、一番端に座っていた女の子に「君、韓国人?」と聞いた。彼女は「そうです」と答える。「日本の大学に行ってたの?」「はい」「日本語と韓国語ができるってこと?」「はい」「エンタメに興味あるの?」…その後も代表はその子に対しての質問を止めない。とうとうそのまま15分の面接時間が終わってしまった。
結局、その子以外は自己紹介をする時間さえも与えられないまま面接は終わった。

退席する時、背中越しに会長の「外国の人がほしかったんだよ~」という発言が聞こえた。その時はさすがに悔しくて、無駄になった交通費と、準備に費やした時間を思って夜行バスの中で泣いた。

「採用担当者にも葛藤があるのだ」ということを知った

この他にも説明会で「こんな時期まで入社が決まってない君たちみたいなやつは…」と言われたり、普通では考えられないくらい理不尽なこともあった。改めて思い返すと、人が、立場とか状況を利用してこんなことをしていたのかと唖然とする。

それでも就職できたのは、ある採用担当者との出会いがあったからだ。
ある会社の面接に早く着いてしまった際、採用担当の方が待合室で話をしてくれた。その中でぽろっとこう言ったのだ。

「採用担当するのは今年でもう5年目だけど、本当は嫌なんですよ。僕の意見で若い皆さんの人生を左右してしまうのが心苦しい。毎回、これでよかったのかなあと思います」

その言葉を聞いて、初めて「採用担当者にも葛藤があるのだ」ということを知った。

理不尽な経験は、本当は一刻も早く忘れたい。しかし、私は自分が経験した就活体験も捨てずに覚えておこうと思っている。それは、自分たちもいつか人の人生を左右する立場になるかもしれないからだ。これから就活をする後輩たちに、自分なら何と声をかけるだろう?と考える。私はただ「自分を曲げてまで、頑張ることはしなくていいよ」と言いたい。
後輩たちが決して同じような思いをしなくて済むように、それだけは忘れずにいたいと思っている。