大学生になって、異性からデートに誘われるようになった。デートというと大袈裟かもしれないが、特別親しいわけでない異性から食事に誘われたり、映画に誘われたり。高校生まで、恋人でもない異性と二人きりで出かけることなんて経験のなかった私にとっては、「これってモテ期!?」と浮足立たずにはいられなかった。

異性から声がかけられるようになったことには理由がある。それは、SNSの存在だ。人見知りの性格で口下手な私にとって、直接的な会話というのは、非常にハードルが高い。SNSは、同じ学校やコミュニティーの人間であれば、気兼ねなくフォローし合える。フォロー段階で、いとも簡単に初コンタクトを済ませられるため、実際に対面するよりも会話のハードルが低い。実際に話したことがなくても、互いのタイムラインに情報が流れることで、存在を認識してもらうこともできる。

デートに誘ってくれるのは、同じ大学の男の子だったり、中学・高校時代の同級生だったり。異性と二人きりになるのは緊張するけれど、「いつまで誘ってもらえるかわからない!」と、自分を鼓舞させながら誘いへ乗った。

彼とイルミネーションに出かけたけれど

その中に、毎週のように食事や遊びに誘ってくれる人がいた。特別親しかったわけではないけれど、中学時代のクラスメイトだ。実際に会うのは月に1、2回程度であったけれど、毎回のように彼の方から誘ってくれるので、「これって私に好意があるからだよね?」と心を躍らせずにはいられなかった。

初めて二人きりで食事をしてから半年ほど経っても、彼とは相変わらず、一緒に食事をしたり、出かけたりするだけの関係だった。
「どうして告白してくれないんだろう…」私は段々と痺れを切らしていた。

クリスマスが近づいてきた頃、彼がイルミネーションへ行こうと言うので、毎年イルミネーションを開催している遊園地へ出かけた。電飾の施された敷地内は、恋人たちで溢れていた。
「私たちもカップルに見えるのかな?」冗談交じりで聞いてみた。
「周り、カップルばかりだね」はぐらかさないで欲しかった。

 私は、賭けにも近い言葉を放った。
「ねぇ、最初、どうして私を誘ってくれたの?」
 彼の目線はイルミネーションへ泳がせられる。
「…そんなの、何となくだよ」
彼の瞳は幾万の光を取り込んで、私の勇気を掻き消した。私はそれ以上、何も聞かなかった。

私の視界に映る恋人たちは、手を繋いでいたり、寒さを凌ぐように身を寄せ合っている。私と彼の手が握られることは無くて、二人の間には、一定距離が保たれている。私たちの間だけプツリと明かりが消えてしまっていて、取り残されているみたいだ。

スマートフォンに届いた「ねぇ、俺と付き合わない?」

帰りの電車を待って、二人で乗車位置に並んでいた。彼は私の後ろに立っていて、表情を見ることができない。特に会話をするでもなく、沈黙が続いた。ふと、後頭部を何かが撫でた。ビクリと、わずかに肩が震えた。私の手を握らずにいた彼の手が、私の髪を梳いた。
「髪、黒くなったね」
夏に、明るいブラウンに染められていた私の髪は、数日前、トーンダウンした。彼はこの時、初めて私に触れた。

帰宅した後、スマートフォンを確認すると、彼からメッセージが届いていた。
「ねぇ、俺と付き合わない?」さっきまで、一緒にいたのに。
「直接好きって、言ってほしかったな」そういう私の言葉だって、スマートフォンのディスプレイ上に表示されるだけで、声にならない。
「今度会った時に、直接言わせて」彼はそう返信をくれたけれど、その後、彼から言葉を貰うことはなかった。

私たちのコミュニケーションはSNSに頼っていた

彼は何度もデートへ誘ってくれたけれど、二人で会っている時に、次回の約束を取り付けることは、絶対にしなかった。多分、断られることを恐れていたのだと思う。

私は、人とコミュニケーションを取ることが苦手意識を持っているし、下手くそだ。けれど、恋愛関係を持とうとすることは、誰にとっても勇気のいることなのだと、今になってとても反省している。誘ってくれる男の子たちは、恥じらいを糧にして行動してくれたのに。それに便乗して、私は随分と楽をしていた。

受身に構えているのにもかかわらず、いざ自分が「何となく」で選ばれていると知って、納得することができなかった。彼の手が、私の髪を梳いたとき、「『何となく』でいいなら、私にさわらないで」と、そう思った。直接「好き」と言って欲しかったのは、私のことを選んで欲しいという私の欲張りであり、プライドを保つための我がままだ。

SNSに頼って、土台をきちんと組み立てなかった私たちのコミュニケーションは、新しい展開を企てようと、積んでも、積んでも崩れてしまう。これではいけないと、途中でハタと気付いた時には、最初からやり直すことはおろか、お互いを傷つけ合う惨事だ。

彼は「俺と付き合わない?」とメッセージをくれたけれど、そこに「君と」という言葉はなかった。それに気付いたとき、私は悲しみと同時に、「『何となく』な君じゃなくてもいいんだ」という彼の気持ちを垣間見た気がして悔しかった。けれども、ずっと受け身でいた私には、悔やむ資格なんてなかった。

結局のところ、私たちのデートは、当事者意識を欠いたまま、数を重ねているだけだったのだと思う。お互いが恋愛関係を構築するのだと意識しなければ、そこに新しい展開を積み重ねることは難しい。