性暴力に抗議する「フラワーデモ」開始から、4月で1年になります。この1年で、性暴力に対する社会の見方も大きく変わったように思います。デモは3月8日で一区切りですが、性暴力をめぐる抗議の輪は今後も広がりそうです。改めて、フラワーデモが被害者や支援者に与えた影響を考えてみたいと思います。

フラワーデモは、女性への性暴力事件の無罪判決が全国で続いたことに抗議するため、昨年4月に東京駅前でスタートしました。

その「無罪判決」のひとつは、当時19歳の実の娘に性的暴行をしたとして、準強制性交罪に問われた父親に対するものでした。しかし今月、名古屋高裁であった控訴審判決では、「被害女性は当時、抵抗することが困難な状態だった」として、逆転有罪判決になりました。被害者Aさんは、この逆転有罪判決とフラワーデモの関連について、こうコメントしていました。

昨年,性犯罪についての無罪判決が全国で相次ぎ,#metoo(ミートゥー)運動やフラワー・デモが広がりました。それらの活動を見聞きすると,今回の私の訴えは,意味があったと思えています。なかなか性被害は言い出しにくいけど,言葉にできた人,それに続けて「私も」「私も」と言いだせる人が出てきました。私の訴えでた苦しみも意味のある行動となったと思えています。

朝日新聞デジタル
判決後、Aさんを支援する岩城正光弁護士らが記者クラブで会見をした=伊藤詩織撮影

「『あなたのことを信じます』という場所があったから語れる」

フラワーデモの発起人の一人である北原みのりさんは、判決後に開かれた集会で「最初は司法への抗議だった。でも、そこから『私も話します』と次々に被害を語る人達が出てきた。『あなたのことを信じます』という場所があったから語れる。そして記者やメディアも積極的に理解しようとする空気が出てきた」と振り返っています。

この逆転有罪判決が出た日、私は、裁判所の前で手作りのプラカードを掲げている女性に話を聞きました。彼女はフラワーデモに参加した時の様子をこう話していました。

「中学2年生の女の子が、小学5年生の時の自身の体験を話していた。それを見て、私も話してみようと思った」。
その場で話すことを決めたため、もちろん準備はできていない。初めて公の場で話す、つらい体験。「自分の子どもの世代に、つらい経験を引き継いではいけない。私の時代で変えていかなければならないという思いを話せて良かった」と、彼女にとって、フラワーデモで話をしたことが、とてつもなく大きな一歩であったことを教えてくれました。

判決前に支援者、フラワーデモ呼びかけ人らがスタンディングをした=伊藤詩織撮影

フラワーデモは傾聴が得意な日本ならではの「デモ」の形

彼女の話で、特に印象的だったのは「フラワーデモは、静かに傾聴する、日本人の良さが実ったデモ」という言葉です。フラワーデモは、スタンディングやマーチをするような抗議の「デモ」という役割以上に「グループセラピー」に近いのかなと感じました。

名古屋高裁の逆転有罪判決後の会見でも、被害者Aさんの弁護士に対して「(Aさんは)セラピーを受けていますか」という質問がでました。弁護士は「そこまでのエネルギーもない。心の傷はやけどと同じで、かさぶたにならなければ外に出られない。今は風が吹いただけで痛い、治療に向き合える状況ではない」と話していました。

セラピーを受けることさえ、被害を受けた方にとっては、ものすごくエネルギーのいることなのです。セラピーも自分の気持ちや体調に応じて、受けられることが必要だと思っています。

被害者のなかには、「まだ言えない」「整理がつかない」という方も大勢います。そういう方たちにとって、「安心して話せる」場所があることが、回復のきっかけになると思います。そういう意味でも、フラワーデモのように、体験や気持ちを言語化し、共有する場所はとても大事だと思います。

判決後、名古屋高裁前の通りにて=伊藤詩織撮影

2020年、刑法改正「見直し」の年

今年は刑法改正が見直される年です。2017年、刑法の規定を改正した際に「3年後に見直し、必要なら改正する」としていました。2020年の今年が、まさに「見直し」の年となります。オンライン署名などで、刑法改正への声をあげることもできます。

社会というと、かたちもなく想像しづらいですが、構成しているのは、私たちひとりひとりです。それぞれが、声に出す。声に出せなくても、話しやすい雰囲気を作る、それだけで社会を変えることはできるはずだと私は信じています。