ADと漫画家、兼業で気づいた「悲劇も漫画化するとただのコメディ」
平日はテレビマン、週末は漫画家という兼業生活を送る真船佳奈さん(30)。ミレニアル女性向けウェブtelling,では超人気連載「#最高に楽しいぼっち旅をしよう!」を担当し、ぼっち旅の楽しさに目覚めたと思いきや、突然(?)結婚し「#最高にマイペースな結婚をしよう!」をスタート。AD時代の体験談をまとめた最新単行本『オンエアできない!DEEP』(朝日新聞出版)も発売されたばかり。私生活も仕事も、全てネタにぶっこむ真船さん。そんな真船さんが「あの頃の私」に伝えたいこととは……?
「あの頃の自分」に文章を書くとなった時、まず最初に(昔の私に言いたいこと、一個もねえわ)と思った。 30年間生きてきて、思い出したくない体験や後悔する場面は数え切れないほどあれど、過去に戻ってまで忠告したいことって意外とない。 「お酒を1杯飲むごとに水も一杯飲むんだよ」ってことくらいかなあ。
かっこいい言い方をすればそのくらい「全てが私の糧になっている!」ということだし、何より当時の自分が未来の私の忠告を聞くかっつったら、聞かないと思うのよね。 聞き分けが良くなった今でさえ、いきなり一回り老けた私が登場し、くどくど言ってきても 、うるせーなーって聞かなそう。
そうなるとわざわざタイムスリップした甲斐もないから未来の私も辛いよね。どうせタイムスリップするなら、絶対に上がる銘柄の株とか買ってた方がいいわ。
10年前とかにタイムスリップしたら、もう当時の私が怖くて話しかけられない
ADとして働き始めた自分へ、缶コーヒーと一緒に差し出したい言葉
それでも、「あの時こんな言葉が欲しかったなあ」と思うことはある。 今日はテレビ局のADとして働きだしたての頃、ボロボロになっていた昔の自分に「まあ元気出せよ」と缶コーヒー差し出すおっちゃんみたいな感じで語ろうと思う。
<仕事はひとつじゃない> 大人になっていく過程というのは「自分が普通の人間だ」と自覚していくことだ、と誰かが言っていた。 テレビ局に入社して3年目。部署異動により、いきなりバラエティ番組のADとなった私はまさにその言葉を痛感していた。 昔思い描いていた「テレビ界のドクターX こと大門未知子」的な自画像からは、はるか3億光年遠いところに私はいた。私、失敗しかしませんから。 ADっつーのは、アシスタントディレクターという名の通り、テレビを作るための下準備をやる人。
ADは本物のポンコツだとマジで務まらない
▲ポンコツADだった頃を描いた漫画(「オンエアできない!Deep」より)
「馬にタレントを乗せてお散歩するロケ」があったら、馬もタレントも安全に滞りなく収録できるまで尽力するのがADの仕事だ。 馬を借りる牧場に話をつけ、警察署に電話をかけて「馬を歩かせる際の道路交通法」について聞き、馬がどのタイミングでウンチをするのか聞き、馬の好物を買っておき、あらゆるトラブルに備える。 テレビでよく映るADは大抵出演者からいじられてて、なんとなくアホっぽく見えるんだけど、本物のポンコツだとマジで務まらない仕事だ。 デキるADは同時思考能力に長け、臨機応変な対応をし、関係者にはにこやかに接する。 一方の私は常に思考回路はショート寸前、小さなトラブルに飛び上がるほどビビり倒し、持ち前の人見知りで常に「フヒフヒ……」と力なく笑うだけのポンコツである。 怒られた時も「まあいっか!次!」とか思えない。 「もうおしまいだああああああ!」と深夜のすき家で泣き崩れ、その割に次の日に全く同じミスを犯したりする致命的にダメなやつだった。
夜になるとしくしく泣いていたのでマジで七不思議のひとつくらいにはなっていたと思う
何かあるとトイレに閉じこもってシクシク泣いていたので、多分幽霊か何かに間違えられてたと思う。 もしそんなあの頃の私に会えるとしたら、「ミラグレーン」って錠剤が二日酔いにはテキメンに聞くことも伝えつつ、「仕事はひとつじゃないんだよ」といってあげたい。
▲酒癖の悪い人は「お酒を飲むときはお水を交互に飲みます」と心がけようね(「オンエアできない!Deep」より)
<仕事を二つにしたら、楽になった> で、その後何年かして私はなぜか本業でテレビマンをやりつつ漫画家にもなった。(どんだけはしょるんだよ)。 ポンコツADだった日々をギャグエッセイ漫画「オンエアできない!〜女ADまふねこ(23)、テレビ番組作ってます〜」にまとめてデビューしたのだ。 ここら辺の詳細はtelling,さんの記事 を読んでもらえると詳しく書いてある。
「私にはテレビしかない!」と思い込んでいた、つらかった
今まで名無しのADだった私が、自分の名前で一つの作品を作るようになると世界が急に大きく広がった。 なんで今まで必要以上にトラブルに怯え、常に考えすぎてパンクして、失敗を水に流せなかったのかというと、「もう私にはテレビしかない!」と思っていたことが原因なんだと気付いた。 自分のどこが嫌いだったかというと、テレビマンとしてそぐわない部分だった。
▲8割辛いんだけど、2割くらい大好きだからやめられない仕事(「オンエアできない!Deep」より)
辛いエピソードも客観的に見たらただのコメディだった
漫画家としては絵も下手だし、ストーリーも荒削りだけど、それでも自分の作品で評価してもらえる道がテレビ以外にもあったんだと気づいてから人生は途端に楽になった。 辛い辛いと泣きわめいていたエピソードほど、漫画にしてみるとギャグの要素が強い。視野を広げて私のアホさを客観的に見てみたら、そこにあるのはただのコメディだった。
▲私をモデルにした主人公・まふねこさん(「オンエアできない!Deep」より)
若かりし日のことを思い返すとしょーもねえことでくよくよしてたな!と思う(Long long ago…的に言ってっけど私まだ30歳だからね!!) でも当時の私にとってみれば、それは大きな問題だったし、悩むべき問題だったんだと思う。今もしょーもないことでくよくよ悩んでるけど、後々だいたい漫画のネタになることがわかっているから楽だ。
「私には別の道もあるんだよ!」って覚えておいてほしいな…
読者の皆さんが日々悩んでいるとしたら。もうその悩みを「私には別の道もあるんだよ!へっ!」っつって唾吐いて捨てちゃってもいいと思う。
一個の柱を大事に生きている人を尊敬はするけれど、別に柱なんて何本あったっていいんだから。 別の道にふっと寄り道してみた時、何か見えてくることがあるかもしれないし、その時は今までの道にある思い出を笑い飛ばせる余裕も出てくるかもしれないね、と思う。
▲くだらないギャグを書いているときが何より幸せです(「オンエアできない!Deep」より)
すっげー人生の先輩面してここまで書いちゃったけど、私はただの「酒癖の悪い大人」です。なので経験則から一つだけ本気のアドバイスをするとしたら、やっぱり「お酒と水は交互に飲むんだよ。」、それだけです。
<さて宣伝です>
私のAD時代の思い出を描いた漫画「オンエアできない!」と新刊「オンエアできない!Deep」が発売中です。 落ち込んだ時に読むと、アホらしくて元気が出ると思います。 ぜひ読んでください。 1冊売れるたびに私が缶コーヒー持ってあなたの元に駆けつけます。(気持ちだけ)
『オンエアできない! Deep』
著者:真船佳奈 定価:本体1000円+税 発売日:2020年3月19日(木曜日) 出版社:朝日新聞出版 判型:A5判 ページ数:176ページ試し読みはこちら
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「オンエアできない!~女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます~」
著者:真船佳奈 定価:本体1000円+税 出版社;朝日新聞出版 判型:A5判 試し読みはこちら
この記事を書いた人
真船佳奈
平日はテレビマン・週末は漫画家・ライター
2012年にテレビ東京入社。2014年に制作局へ異動、バラエティ番組や音楽番組のAD(アシスタントディレクター)、ディレクターを経験。
当時の経験談を『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組作ってます』(朝日新聞出版)にまとめ、2017年に漫画家デビュー。
3月19日に続巻となる『オンエアできない!Deep』を発売。
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この連載について
あの頃の私へ
我慢することが、「社会人」になることだと思っていた。違和感を持つ自分がおかしいんだと思っていた。だけど、年齢を重ねた今ならわかる。あの時の、私の感覚は間違っていなかった。「かがみよかがみ」世代の女性たちに、あの時の私に、今振り返って伝えたいことをお届けします。
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