夢か仕事、ひとつに絞らないとダメ?~新しい働き方を模索する~

『残念ですがこの度は~』の文言が並ぶメールを見て、私は「ああ、やってしまったな…」と思った。ある会社の最終面接の結果であるそれを読みつつ、当日の様子を思い出す。正直言って、面接官の感触もよく、うまくいきそうだった。でもこの結果だということは…おそらく、確実にあの一言が余計だったのだろう。
私は、新卒時も合わせると人生で三度、求職活動をしている。その結果、一社目は営業職、二社目は編集職として働いた。こうさらっと書くと忘れてしまいそうになるが、この二社に決まるまでに、何社も受けて、落ちている。さすがに三度目の転職活動ともなると、色々なことがわかってきた。
中でも発見だったのは、「面接官を間違いなく困らせる言葉」を自分が持っていることだった。それは、とても簡単な一言だ。
「あの、実は私、演劇をしていまして…」。
そう言うと、面接官は往々にして困惑する。こちらからすると「仕事はしっかりします。その上で公演期間に、有給を使って休みを取ります」という事前申告のための一言なのだが、面接官にとっては違うようだ。それまでの和やかな雰囲気はどこへやら、明らかに厳しい顔をする人もいる。
「演劇?それって何をやっているの?」と尋ねる人。「演劇で売れたりとか、うまくいくのが本当は一番いいんでしょう?」と決めつける人。一番多いのは、「それで食えないから仕方なく仕事を探してるんだね」と勝手に結論付けてしまう人だ。
そして、最後にはこう言われる。「結局どっちがやりたいの?」。
私はこの質問を受ける度、「なぜひとつに決めないといけないんだろう」と毎回不思議に思っていた。なぜ「両方とも続ける」という選択肢がない前提で話を続けるのだろう。そもそも私は、演劇で食えないから仕事を始めたいと思ったわけではない。自分の興味のあることが仕事にも、演劇にもあったのだ。そして、両方やることが自分には向いている。例えば、営業職では演劇で培った宣伝方法が役に立ったし、編集職では脚本を書く時の文章の組み立て方が役立った。逆も然りで、演劇の場でも仕事で培ったスキルに大いに助けられている。
しかし、そういうことを面接で話し「どちらも同じくらい大切で、続けていきたいと思っています」と訴えても、信じてくれない人が多い。話を聞くと、どうやら彼らの中には「苦労してお金を稼ぎながら、自分のやりたいことで食べていける日を夢見て頑張る…」というような、「夢追い人像」が既に出来上がっているようだった。そして、そういう夢追い人は往々にして「仕事には本気ではない」という思い込みがあるようだ。
こういう面接を続けるうち、そして分かり合えない日々が続くうちに私は段々と自暴自棄になっていった。仕事だけに打ち込んでいる人でないことの何が問題なのか。面接の前日の夜は「またこうした説明を繰り返して、わかってもらえない時間を過ごすのか…」と考え込んでしまい寝付けない日々が続いた。
友人にこういう現状を話すと、「面接のときに、演劇のことわざわざ言わない方がいいよ」とアドバイスをくれる人もいる。しかし、私はこの発言に強い違和感があった。だって、こちらは何も悪いことをしている訳ではないのだ。なのに、自分がやっていることは、隠さないといけないようなかことなのか?そして、なぜこうした発言をするのかと考えて、ひとつの結論に至った。これは、自分なりの決意表明みたいなものなのだ。「『演劇のせいで仕事が疎かになっている』と言われないように頑張ろう」という私の身の引き締め方だった。しかし、よくよく考えてみてわかった。この考え方も間違っていたのだ。
一番いいのは、そんなプレッシャーを自分にかけることなく、ただ仕事以外にも力を注ぐ場所があるという「個性」としてそのまま受け入れてもらうことだ。本当は、何のレッテルも貼らずに自分の一側面として見てほしかったのだ。
そう気づいてから、私はますます面接時に演劇をやっていることを隠さなくなった。すると、とうとうそのままでもいいと言ってくれる会社に出会った。そこは、今まで働いていたどこよりも平均年齢がずっと低い会社で、驚くことに会社での仕事以外にも頑張る場所を持っているバンドマンやゲーム開発者などがいた。みんな二足の草鞋で精一杯働いている。
もし今、同じような理由で就職に悩んでいる人には、「自分のやっていることを偽らないで」と伝えたい。今後はもっと働き方が多様化して、いくつも仕事を持っているのが普通になるだろう。そして「たくさんフィールドを持っていた方がいいね」と言われる日がくるかもしれない。
私はその日のために、そして後輩たちが好きなことを諦めなくて済むように、しっかりと働き続けたいと思っている。
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