人に会うのが疲れる。
それは、緊急事態宣言が明けた後、待ってましたとばかりに病院に行ったり、友人に会うようになってしみじみ実感したことだった。

これまではそんなに気にならなかったのに、人と話している時の、少しの会話のズレみたいなのがすごく気になる。症状を聞く前から「こうだろう」と決めつけて話を進める医師や、「自粛期間中にも全然外とか出てたよね?」という前提で話してくる友人。なんとなく「違う」と言いづらくて、うんうんと肯定していたが、その後ずーっと「そうじゃないのに言えなかった…」みたいな気持ちを引きずった。言いたいことが何で言えないんだろう。相手に合わせて会話して、その後うじうじ考えてしまう自分が嫌になる。
そして、その気持ちは2カ月ぶりに行った美容院で爆発した。

気を使っているつもりのマスクが、かえって邪魔になっている…!?

美容師さんは、「お久しぶりです~」とマスクをしながらでもわかる満面の笑みで迎えてくれた。そして、続いてこう尋ねる。
「マスク、どうされますか?」。
私は、一瞬意味がうまく受け取れず「はい?」と聞き返した。すると、「カラーリングの時にマスクに色が付いてしまうのですが、どうされますか?」と言う。

私はその時、一連のウイルスのニュースを思い出していた。「美容院で感染」などの記事も目にしていたし、やはりここは付けたままでいるのがいいのかもしれない。正直暑さも感じていたので取りたかったが、「代わりのマスクも持っているので、汚れてしまっても大丈夫ですよ」と返事をした。「わかりました!」と言われ、そのまま最初のカラーリングに移る。

問題が起きたのは、洗髪のことだった。
椅子に座って気づいた。このままだと、マスクの耳をかける部分が邪魔になるのでは…?不安になったので尋ねる。「あの、マスクしたままだと洗いにくいですか?」すると美容師さんは「あ、うーん…大丈夫です!うまいこと洗いますんで」と答えた。お言葉に甘えてそのまま洗髪してもらう。しかし、最中にふと「あれ、もしかしてこれは、『マスクをしたままでいたい』とわがままを言う迷惑な客になっているのでは…?」と思った。気を使ってマスクしているつもりが、かえって仕事の邪魔になっている…!?気がかりのまま洗髪は終わった。

私は「いいお客さんでいたい」という気持ちが強すぎた

途中で、別のお客さんが入ってきた。もう一人の美容師さんが出迎える。私より随分年上に見えるそのお客さんは、入店するなりマスクをぱっと取った。
私は「あれっ!?」と思った。そうか、マスクって、そんなに簡単に取ってもいいのか。彼女は、「暑いから取っちゃいました!」と笑っている。すると、その美容師さんから思いがけない一言が飛び出した。

「いや、むしろマスク取ってもらった方がありがたいっす!」。
背中にぴしっと緊張が走った。え…そうなのか…。その人は続ける。
「やっぱり、マスクで顔半分見えないまま切ったら、全体的な印象掴めなくて不安なんで、取ってもらった方が嬉しいですねー」。
私はそれを聞いて、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
やっぱり私は迷惑な客になっていたのだ。気づかっている気になっていた分余計に、自分が情けなくなってくる。

なんでこういうコミュニケーションの相違みたいなことでいちいち悩んでしまうんだろう。そう思って、先のお客さんのことを観察してみた。彼女は、その後夫の文句や、自粛期間中の生活について話していた。それを見て、普段なら「あんなに一方的に自分のことを喋って、迷惑じゃないかなあ…」などと思ってしまうのだが、その時は違った。あることに気付いたのだ。

「そうか、こういうお客さんでいた方が、サービスする側は楽なのかもしれない…!」
私は「いいお客さんでいたい」という気持ちが強すぎて、気を使っているようで、気を使われていた。そのことに全然気づけていなかった。
そして思ったのだ。「多少図々しかったとしても、自分の希望を伝える人間になろう」と。

できるだけ自分の欲望に素直なお客さんでいよう

喫茶店に入るなり店員さんに「コーヒー!」と注文する年配のお客さん。服屋で店員さんに話しかけられた時に「ひとりで見たいので」と断るお客さん。それらすべてを「店員さんからしたら嫌だろうなあ」と思っていたのだが、考えてみればむしろ、願望を手っ取り早く知れてお互いにとっていいのかもしれない。

相手にどう思われるか考え過ぎず、「できるだけ自分の欲望に素直なお客さんでいよう!」と決意した出来事だった。