幼い頃、「今が一番楽しい時やで。楽しんどき!」という人が苦手だった。
子どもなりにも日々つらいことだってあったし、そんな日々を「今しか楽しくないで」みたいに言われてしまうと悲しくなった。
そのくせ、「大人も楽しいよ」と言われても「ほんとに?」と疑った。仕事とか家事とか、毎日何かしらやることに追われているように見えるけど、大人って本当に、本当に楽しいの??

新社会人になって、「今のうちに楽しんどき!」と言っていた大人の気持ちが少しわかるようになった。平日はただただ必死に働いて、土日は寝るか休む日々。遊んだとしても、月曜からの仕事に支障がない程度に予定をセーブする。「もっと遊びたい」と思いつつも、「仕事中心に生活リズムを決める。これが社会人かあ…」と半ば諦めてもいた。

35歳年上の先輩「夏子さん」流の励ましと友情の始まり

そんなある日、会社の事務として働いていた夏子さん(仮名)に声をかけられた。
「どう?最近、休みの日楽しんでる?」
夏子さんはとても優しく、疲れている時などにさりげなく声をかけてくれる。私が会社で唯一と言っていい程憧れている人だった。字も美しく、言葉遣いや所作も完璧で、会社の窓口となって働いていた。とても若々しい人だったので、「もう赤いちゃんちゃんこ済ませてるのよ~」と年齢を聞いた時はびっくりした。

「休みの日は、ほとんど寝て過ごしています」と言うと、「もったいない!私があなただったらやりたいこと一杯あるのになあ~!」と笑う。夏子さんらしい励まし方だな、と思いながら聞いていた。

結局私は働き方に無理が生じて、その会社を退職することになった。最終出社の日、夏子さんは給湯室でこっそり手紙をくれた。
「これ、家に帰ってから読んでね」
そこには、惚れ惚れするような美しい文字でねぎらいの言葉と共に「これで本当の友達関係が始められますね」と一言書かれており、電話番号とアドレスが添えてあった。
転職先が決まってから連絡すると、「ぜひ会いましょう!」という返事と、最近オープンしたハンバーガー店の情報が送られてきた。

語学にボランティアにと寸暇を惜しんでやりたいことに挑戦

 夏子さんは、半年以上ぶりにも関わらず全く変わらない笑顔で迎え入れてくれた。「若い子と一緒ならこのお店でも浮かないかなと思って」と大きなハンバーガーを頬張る姿が可愛らしい。「最近何してるんですか?」と聞くと、びっくりする言葉が返ってきた。
「休みの日は、山の中のスクールで中国人観光客にスキーを教えてるよ」。
聞けば、十年以上前からやっているボランティアらしい。語学が得意だとは聞いていたけれど、人に指導できるほど中国語は上手だとは知らなかった。

続けて、韓国人の友人の家に遊びに行った時の写真や、留学生から教わっているというロシア語のテキストを見せてくれた。私は度肝を抜かれて聞いた。
「夏子さん、いつからこんなに何か国語も勉強してるんですか?」
「英語は学生の時で、中国語は30代、韓国語は40代になってからで、50代になってからロシア語を始めたの」
えええ、と声が出た。
「歳を取ると覚えるのに時間がかかって、要領が悪くて嫌になっちゃう」

そこでやっとわかった。
そうか、以前の「私があなただったらやりたいこと一杯あるのになあ~!」という言葉は、
こちらに「若さをもっと楽しめ」と言っているのではなく、本気で、心の底から「私だったら時間を無駄にしないのに!」と思って発された言葉だったのだ。

夏子さんは、そろそろ会社をリタイアして、留学に行きたいと言う。
私は度肝を抜かれた。もし自分が60歳を超したら、その時にこんなにアグレッシブに挑戦していけるだろうか。「若いうちはいいよねえ」と何もかも年齢のせいにして、自分が行動しないことを棚に上げてしまわないだろうか。

本当に人生を楽しむために、年齢をやらない言い訳にしない

そうか。楽しそうな大人は、「もう歳だから」とか、「今の時間を大切にして」なんて言わない。ただただ「まだまだやりたいことがいっぱいあるのに時間が足りない!」とキラキラした瞳で話すのだ。

それ以来、私は何かに負けそうになったり、流されそうになった時はこの夏子さんの姿勢を思い出す。いつだって、やろうと思えば何でもできるのだ。

社会人になってから、35歳年上の友人ができた。
子どもの頃大人の言うことを疑っていた私は、今、彼女のような大人になりたいと思って生きている。