もう何カ月も返信をしていなかったその相手が、今、目の前に立っている。鼓動が激しくなるのがわかる。何か、私に言いたいことがあるんじゃないか、と思いつつ、向こうは何も言わない。ただ立っている。私は、右手をそっと上げた。「久しぶり」。そう言うと、向こうも手を上げて言った。「うん、久しぶり」。

彼女は、大学時代に仲良くなった友人だった。
正統派ではない文学に魅かれたり、問題を抱えたアイドルが好きだったりと好みが似ていて、親しくなった。深く話すと、本人も生きづらさを抱えていて、同じようなものを抱えた相手に共感できる心の優しい人だった。私の作る物にも興味を持ってくれて、率直な感想を教えてくれたりした。

彼女の恋愛事情に口出しは出来ないけれど応援も出来なくて

そんな彼女と唯一意見が合わなかったのが、恋愛だ。彼女は、変わった考えの持ち主や、自由奔放な人を好きになる。そして、その関係によく苦しんでいた。
彼女から『相談』と称して「彼氏にこんなこと言われた」「あんなことをされた」と聞くたびに、「彼女が大事にされていない」と私は憤った。「そんな人やめた方がいいよ」と何度も言った。しかし、別れたり嫌いになるという選択肢はないらしい。酷い言動に嘆いても、数日後には「やっぱり好きだから」と相手の謝罪を受け入れているようだった。私は「まあ、彼女自身がそれでいいのならいいけど…」という気持ちでいた。彼女自身が満足しているのなら、それを止める権利は友人にはないからだ。

しかし、社会人になってからもそれは続いた。学生の時と違い、他の友人は続々と将来を見据えた恋愛をしている。すると、彼女からくるメッセージが今までよりもつらくなってきた。
「別れるって言ってたけど、でもやっぱりまた付き合ってもいいみたいなこと言われた」「相手が忙しいから全然会えないけど、会えた時の嬉しさが大きいから耐えられる」
そんな言葉を見る度に、私は叫び出したい気持ちにかられた。
「そんな、あなたのことを大切に思っていない相手に、あなた自身の時間を割かないで!もっと自分を大切にして」
何度も、何度も、何度もそう打って、でも送る直前で手が止まる。

ひっかかっていたのはある考えだ。
「あなたを大切にしていない」は、私の判断基準であって、彼女のではないということ。
もし本当に、彼女がこういう方法でしか幸せを感じられないのだとしたら?それを否定してしまっていいのだろうか…?
しかし、今思えば、私は単に自分が彼女に「かわいそう」というレッテルを貼っていることを知られたくなかったのだと思う。

結局、私は逃げた。

メッセージに返信しなくてもやっぱり幸せなのか気になって

それから、メッセージが来ても無視し続けるようになった。やがて、彼女からの言葉は完全に来なくなった。
もちろん何度も返事をしかけた。怒っているだろうか、と不安になったものの、それでも「私にできることは何もないのだ」という気持ちが返事をためらわせる。毎回送っていた自主企画のお知らせも、初めて送らなかった。
でもなんだか、ずっと気になる。

そんな時に、冒頭のように彼女が突然イベントに現れた。あいさつをした後、彼女は何もなかったかのように私の作品を買い、世間話をして帰っていった。
ものすごく悪いことをしたと思った。彼女はこうして来てくれたのだ。私は彼女から逃げたのに。

久しぶりの再会と、思い切って送ったメッセージへの返信

いてもたってもいられず、その日の夜にメッセージを送った。あなたに私の幸せの価値観を押し付けるようで返事ができなかったこと。それでもやっぱり、幸せになってほしいことを綴った。
すぐに彼女からの返事が来た。
「今日は親友を失いたくないなと思ったので行くことに決めました。返事が来なくなって、しばらく考えました。そして、やっぱりあの人とは距離を置こう、と思いました。今では連絡も取っていません。誰と付き合うか、今までになく慎重に考えている今日この頃です」
彼女は、私が思う以上にずっと強かった。自分でしっかりと道を選択していたのだ。
私は、彼女が売り場に来てくれた時の嬉しい気持ちを思い出していた。連絡が絶たれて不安だったのは、何より自分だったのだと思う。

人は、人生のある地点で仲が切れてしまっても、必要であればまた一緒になれるということを知った。彼女のメッセージの最後にあった、「このまま疎遠になるのは嫌だから」という文字を見て、これから先もずっとこうして続けていきたいと決意した。