伊藤詩織×内藤佐和子徳島市長「国会で寝ててもいいから出馬してくれと言われたことも」

●伊藤詩織×内藤佐和子徳島市長〈前編〉
今年4月に36歳で史上最年少市長となった徳島市の内藤佐和子さん。「史上最年少」「女性政治家」として注目されることを、内藤さんはどう感じているのでしょう。米雑誌「TIME」で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたばかりの伊藤詩織さんがインタビューしました。
今年4月に36歳で史上最年少市長となった徳島市の内藤佐和子さん。「史上最年少」「女性政治家」として注目されることを、内藤さんはどう感じているのでしょう。米雑誌「TIME」で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたばかりの伊藤詩織さんがインタビューしました。
伊藤詩織さん(以下伊藤):新しい内閣を見て、似たような年齢、男性の顔ぶれが並びこれが日本のトップを仕切るのかと愕然としました。日本の社会ってもっと多様なはずなのに。ここまで女性が少ない国は先進国でも少ないと思います。佐和子さんは、なぜ女性政治家がこんなに少ないと思いますか。
内藤佐和子・徳島市長(以下内藤):子育ては女性だけでするもんだと思っている人が多いことがあるのかなって思います。私は小学3年生の息子がいるんですけど「子どもとの時間はどうしてるんだ?」とよく聞かれます。でも、それって子どもがいる男性も同じことですよね。だけど女性は「子育てしていたら、政治になんて携われないでしょ」という前提があるような気がします。
それから、地方だと誰かが押し上げてくれないと政治家になれないと思っている人も多い。男性だとロールモデルとして政治家の秘書や弁護士などから政治家になる人も多い気がしますが、そもそも女性の場合、そういうロールモデルも少なく、職業選択のひとつとして政治家っていうものがあがる可能性が少ないと思いますね。
一方で、若い女性の政治家への出馬を勧める向きはあります。選挙に勝てると思っている節があるから。実は、前の参院選のときに、立候補の打診がありました。若くて、女性で、東大出身で、地元のテレビに出演していて知名度もある……ということで声がかかったのでしょう。「国会で寝てても良いからでてくれ」って。すごく失礼な話。でるなら真剣に政治をやりたいし、そういう風に担がれることは絶対にしたくない。
伊藤:私も野党系から同じようなことを言われて、立候補の要請を受けたことがあります。問題に取り組みたいというわけではなく、ただのコマとしてしか見ていないんだなと思ってがっかりしました。この人たちは日本をよくしたいとかじゃなくて、選挙で勝てればいいんだなと。
日本で力を持っている政治家は男性の世襲議員が多く、元芸能人の議員も目立ちますよね。米国だと、今注目されているAOC(アレクサンドリア・オカシオコルテス)さんは元バーテンダーだったり、色んな環境のなかで育った人たちもいるのに。政治と実際に社会の中で生きている人の感覚がかけ離れている気がします。どうしたら日本でももっと多様な政治家がうまれますかね。
内藤:とりあえず私は色んな人に「政治家になってみたら?」と声をかけるようにしています。政治っていうと遠く感じてしまうけど、まちづくりの一環ですよね。例えば「ゴミの日に風が強くてゴミが飛んでいって大変だった」と言っている人がいたら「そういうのを議会で言えば良いんだよ、それが政治だよ」と伝えています。
あと選挙のノウハウもそうですよね。なんとなく、何かの党に入らなきゃいけないの?って思っている人もいるかもしれないですけど、私は無所属で出ましたし。私でよければ何でも教えますよ、と伝えています。
伊藤:佐和子さんが市長になったことで、市役所内になにか変化はありましたか。
内藤:職員との距離は近くなったかなと思います。そうはいっても、コロナの影響もあって、私も思うように現場にいけないという歯がゆさはあります。なので、市役所内をぐるぐる歩くようにしています。秘書からは「部長を呼ぶので、市長室にいてください」と言われるんですけど「4階から6階あたりを行ってくる」と言ってとびだしています。子育て支援課に行って、子どもに絵本を読むこともありました。子どもは「この人誰」ってなってたかもしれないけど(笑)。
伊藤:わー良いですね。温かい、フレンドリーな目線で話してくれるのは良いコミュニケーションですね。そういうところから大切な声が聞こえてくる。
1984年徳島市出身。東大在学中に難病の「多発性硬化症」を発症。家族、友人らとの交流をつづった「難病東大生」を2009年に出版した。「徳島活性化委員会」を立ち上げて、地元活性化のアイデアコンテストなどを実現した。2020年4月5日投開票の徳島市長選に新顔として立候補し、当選。史上最年少女性市長に。
日本でのMeToo運動が広がるきっかけを作った伊藤詩織さん。「声をあげた性被害者」としての一面に焦点が当たることが多いですが、連載「No Labels」では、「こうあるべき」「こういうひと」にとらわれずに、日々の取材のなかで考えたこと、伝えたいことを綴っていきます。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。