伊藤詩織×内藤佐和子徳島市長「根も葉もない噂にはNOと言う」

●伊藤詩織×内藤佐和子徳島市長〈後編〉
今年4月に36歳で史上最年少市長となった徳島市の内藤佐和子さん。内藤市長もSNSやリアルの場での誹謗中傷にあったと言います。「政策への批判はもちろん聞きますが、根も葉もない噂に対してはきちんと声をあげるべきかなと思っています」と話しています。米雑誌「TIME」で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたばかりの伊藤詩織さんがインタビューしました。
今年4月に36歳で史上最年少市長となった徳島市の内藤佐和子さん。内藤市長もSNSやリアルの場での誹謗中傷にあったと言います。「政策への批判はもちろん聞きますが、根も葉もない噂に対してはきちんと声をあげるべきかなと思っています」と話しています。米雑誌「TIME」で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたばかりの伊藤詩織さんがインタビューしました。
伊藤詩織さん(以下伊藤):佐和子さんが市長になってから、まわりの反応はいかがですか。佐和子さんにあこがれて政治家を目指す女性も増えたのではないですか。
内藤佐和子市長(以下内藤):いやそれが、むしろ私へのバッシングを見た女性に「政治家になりたくない」と言われたこともあります(笑)。でも、議会(質問)を見た方から「私も質問ならできる気がしてきた!」という声は聞きますね。私が市長になってから、ケーブルテレビの議会中継を見てくれる友人や若い人も増えた結果かな、と思います。
伊藤:ネットでのバッシングですか?
内藤:ネットもありますが、リアルもそうですね。徳島は25万人の狭い町なので、前回のインタビューでも答えましたが「○○の愛人だろ」とか根も葉もない噂を流されたりすることもありました。
内藤:最近だと、県議が「内藤市長は当選後太ったようだが、妊娠したんじゃない?相手はあの人か、それともあの人か……」と地元のゴシップ誌のようなものから取材されたそうです。信じられないですよね。
選挙中は「ガリガリで細すぎる。健康面で不安だ」という声があったので、意識して体重を増やしたんですけど。太っても痩せても臆測で勝手なことを言われるんだなとげんなりしました。
SNSで議員から「市長は客寄せパンダだから」「まちづくり団体をやっていたと本人は言っているけれど」と経歴詐称をほのめかされたこともありました。政治家は公人だから何を言ってもいい、守られる存在ではないと思っている人も多いようですが、政治家だって人間です。政策への批判はもちろん聞きますが、「誰かの愛人なんじゃないか」「既得権がある」など根も葉もない噂に対してはきちんと声をあげるべきかなと思っています。
伊藤:ファクトチェックもなしに、言葉を投げかける危うさに驚きます。
内藤:SNSでの誹謗中傷は社会問題にもなっていますよね。最近は問題のある投稿はスクショするようにしています。私への誹謗中傷ももちろんだめですけど、徳島市に対してデマを流されることも、問題だと私は思っています。
伊藤:すごくよくわかります。ファクトよりもフェイクが上回ってしまうのは悔しいですよね。ただ、耳を傾けるべき批判と、人の尊厳を傷つける言葉を分ける作業が、精神的に苦しくないですか。
内藤:ツイッターは荒れすぎているのでもう見ていません。フェイスブックも業務過多で1カ月くらいお休みしていました。政策について説明していく場所にしていきたいなと思っています。
内藤:そうしたこともあって、不必要な誹謗中傷を受けないように気をつけるようになりましたね。前のインタビューでも答えましたが、変な噂がたっては困るので、選挙中は車内でふたりきりになる機会が多いドライバーは女性にお願いするようにしていました。
男性秘書と出張に行く時も、あえて晩ご飯も朝ご飯も別々に行動しています。ホテルで朝ごはんを一緒に食べているのを見られて、何を言われるかわからないので。でも本来はそういうところで、「最近どう?」と、くだけた話もできるのかな……とは思っているのですが。コミュニケーションの仕方には気をつけています。
伊藤: 不倫騒動に加熱するなど日本のメディアのしょうもないところですよね。もっと報道すべきことはたくさんあるのに。そして、そう言った目を気にしてご自身のコミュニケーションに時間を奪われるのはマイナスでしかないと思います。
内藤:詩織さんは自分の被害について声をあげることは、怖くありませんでしたか。
伊藤:2017年に記者会見をする前は表に出た方が安全だと思っていました。いろいろな行動制限のアドバイスを周囲から受けるうちに知らぬ間に抹消されるんじゃないかと思って、「私は自殺しませんので、何かあったら調査してください」と遺書を書いたこともありました。
内藤:詩織さんが声をあげてくれたことを「革命的だった」と話していた市役所の女性職員もいました。50代の方なんですけど、彼女が新人だった時は、ダンスを踊れといって体を触られるのも当たり前だったそうです。
伊藤:それが構造化してしまっているんですよね。だから、法律を変えるだけでなく、政治の中からも変えていかなきゃいけない。佐和子さんに「史上最年少」「女性政治家」のラベリングをすることは不本意なのですが、背負わされているものも大きい気がします。
内藤:気負いは全然ないです。そのラベルも良い方向に使い倒したいと思ってます。女性活躍のアイコンになったことで、各国の駐日大使や総領事がわざわざ徳島市まで会いに来てくれたこともありました。ラベリングは好きじゃないですが、それで注目を集めて、海外と日本の架け橋になれたらうれしいですし、その様子をみて政治家に憧れてくれる人がうまれたらいいなと思います。
日本でのMeToo運動が広がるきっかけを作った伊藤詩織さん。「声をあげた性被害者」としての一面に焦点が当たることが多いですが、連載「No Labels」では、「こうあるべき」「こういうひと」にとらわれずに、日々の取材のなかで考えたこと、伝えたいことを綴っていきます。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。