あの頃、私は体重が90kgだった。もっと言うと、大学中退で無職だったし実家に寄生する引きこもりだった。行くところといえば精神科しかなかった。

 更に言うと、精神科にも行きたくなかった。だってデブだから。太っている姿を誰にも見られたくなくて、実家で過食ばっかりしていた。摂食障害の他にも沢山の病名はついていたけど、そんなこんなを考えないためにも食べ続けていた。

 「痩せている=良いこと」だと思い込んでいたし、太った自分は情けなくてみじめで恥ずかしくて、消えてなくなりたかったけど、その思いとは裏腹に身体はどんどん大きくなっていった。

「痩せている=良いこと」って思っていたけど

 今の私は90kgよりは少なくなっただろうけど、ここ数年間一度も体重計に乗ってない。だってバカバカしくなっちゃったんだ。そんな思い込みにとらわれ続けるのが。

 「痩せている=良いこと」だって、当たり前に思っていた。でも違った。今ではプラスサイズモデルも美しく雑誌を彩るし、服はオーバーサイズブームだし、特別な服屋に行かなくてもファストファッションであの頃の私の体型にピッタリと合う服が手に入る。
 あの頃の私は引きこもっていたから、外の世界を知らなくて、思い込みにとらわれ続けていたのも事実だと思う。でも、世界が変わった。それも事実だ。

 あの頃の私に教えてあげたい。
「あなたが当たり前だと思っている価値観は変わる日が来るよ」って。「世界は変わるよ」って。「あなただけのせいじゃないよ」って。教えてあげたい。大嫌いな身体と不安しか持ってなかった私に。

体型の話だけじゃない。私が20代の頃と37歳になった今とで、世界は変わっている。当たり前が変わっている。例えば「女らしい」なんて幻想と神話の産物で、今じゃSNS炎上必至のNGワードだけど、あの頃は褒め言葉ですらあった。てゆーか、女らしいってなんだよ。

「カワイイ」の意味だって、変わったよね

親からだったり、学校や会社や、漫画や映画の中にでさえ、「女の子なんだから」ってメッセージは含まれていて、あの頃の私は自分の力を抑え付けて慎ましくニッコリしてた。そうすれば身長174cmの私でもカワイイって言ってもらえるから。ちなみに、あの頃のカワイイって「男性をおびやかすことなく愛でられ守られる」って意味で、今のカワイイとも違う。言葉の意味だって変わる。

んで、そんな私は家に帰ってから有り余るエネルギーで過食しまくってた。何を食い散らかしてたんだろうね。怒りかな。不安かな。寂しさかな。自分が自分の好きなように振る舞うと「女らしくない」と言われることへの理不尽さかな。

私は毎月股の間から血を流して生きてんのに、女らしくないのかな。自分の好奇心を発揮して、自分自身で世界を大胆に冒険していくのって、そんなに女らしくないのかな。

消費してるつもりが消費されていたり、誰かの当たり前に自分を当てはめようと頑張って、当てはまらない自分はダメだなんて、そんなことが当たり前の日常だった。

社会が求めるヘンテコな価値観は、変わる。だからぶっ飛ばしていこう

社会とやらにはヘンテコな価値観が溢れている。「痩せなきゃ」「恋をしなきゃ」「モテなきゃ」「生理は隠さなきゃ」「SEXしなきゃ」「結婚しなきゃ」「仕事できなきゃ」「子ども産まなきゃ」「我慢しなきゃ」
そうしなきゃ、受け入れてもらえないのが社会ってやつなんだって思ってたけど、今じゃその全部に中指立てて笑える。バカにすんなよって、バカバカしくて笑える。

あの頃の私はマジでマジで、そんなヘンテコな価値観を信じていたんだけど、それは私だけがバカだったわけじゃない。そんな価値観が社会にマジであったんだ。当たり前の力って強い。知らず知らずに方向付けられて、見えない当たり前でペシャンコになりそうになる。でも、変わるよ。マジで。

もし、今、どこかの誰かがヘンテコな社会の価値観で息苦しくなっているのなら、その中を全力疾走してきた私は言いたい。「そんなもの、全部全部、冗談になっちゃう日が来るよ」って。だから自分を苦しくさせるものは破り捨てて、深呼吸して欲しい。

心地良く生きて良いってことすら、あの頃の私は信じられなかった。でも、自分の心地良さを優先して良い。食べたいものは食べれば良いし、食べたくないものは食べなくて良い。寄せて上げるきついブラジャーなんて外して、オーバーサイズの服に身を包み、思いっきり深呼吸して良い。それが今の“当たり前”になりつつある。

まだまだ私たちを窒息させそうな価値観は溢れている。だけど、それもいつか変わる。私はそう信じてる。当たり前は変わる。あの頃の自分に言ってあげたい。お疲れ様。ヘンテコな価値観の中を生き延びてくれてありがとう。そしてこれからも全力疾走出来るように、痛くて高いヒールなんて脱ぎ捨てて良いよ。さぁ、当たり前のその先へ。今はスニーカーブームなんだから。

石田月美さんの著書「ウツ婚!!: 死にたい私が生き延びるための婚活 」

うつ、摂食障害・対人恐怖・強迫性障害など様々な精神疾患を抱え、実家に引きこもり寄生する体重90kgのニートだった著者がはじめた「生き延びるための婚活」。何度も失敗し、「喰い逃げ」もされ、それでも婚活を通じて回復していく経験を綴る傷だらけの物語編と、その経験から得たスキルとテクニックをありったけ詰め込んだHOW TO編の2本立て。ケッコン? 何ソレ、おいしいの? 笑って泣いて役に立つ、当事者はもちろん支援者にも読んで欲しい、生きづらさ解体新書。