今年の夏は、書いて書いて書きまくった。多い日には一日に5件ほど賞レースに作品を出していた、まるで何かに取り憑かれたかのように。4月に25歳の誕生日を迎えてしまった私は、書くことで生き延びてしまったことへの罪悪感を消したかったのだ、どうか許してほしかった。

25歳になったら何かが変わってしまう気がした

母が死んで10年、祖父が死んで半年。25歳は母が姉を産んだ年だ。幼い頃から「お姉ちゃんは30歳まで生きられないから、かなちゃんが面倒みてあげるのよ」と言われて育った私は、お姉ちゃんが死んだ後の世界に生きている自分というものを想像できなかったので、ハタチそこそこで世界が終わるのだと思っていた。医学の進歩か、幸いにも姉はまだ元気である。
子供の頃から大人になるということが上手くイメージできなかった。背が伸びた私、お酒が飲めるようになった私、スーツを着る私、結婚する私、どれもこれも思い描けなくて、しかもそれが当たり前だった。だが時は流れるもので、ぼうっとしているうちに25歳になってしまったのだ。

25歳になったら何かが変わってしまう気がした。15歳の時に母が自死し、全てがひっくり返った世界で必死に生きてきた。引きこもり、喋らず、自分の過去と母の面影と向き合うだけの時間が終わりを迎えているのに気づいていた。人はずっと一人では生きてはいかれないし、同じままではいられない。良くも悪くも私は成長してしまった。社会に出たいと思い、親の死をなんとか受け止め、歩き出せるようになっていた。永遠に自分の中に閉じこもって、過去に浸っていたかった。失った物は取り戻せないのに、前へ進んでしまったら裏切りのような気がして悲しかった。母に愛されたかっただけの子供のまま、ずっとそのまま生きていたかった。母が死んでも一人で生きていけるだなんて、信じたくなかった。

ずっと、親の死を前にうずくまる子供でいたかったのに

誕生日を迎える一週間前から、私はどことなく動悸がしていた。あと七日で世界が変わってしまう。母がいなくても生きていける私が生まれてしまう。そのことがたまらなく恐ろしくて、人生から逃げ出したかった。ずっと、親の死を前にうずくまる子供でいたかったのに、私は変わってしまった。世界はそんなに怖くないと気づいたし、やりたいこともできてしまった。人は思っていたより優しくて外へ出ても害される心配はそうなかった。もしなにか困った時に、ここへ帰ってきなさいと言ってくれる家族ができてしまった。幸せを知っていく私の側に母がいないことがどうしようもなく、申し訳なかった。

世界、家族、友人、全てに怯え、自分を守ろうと外側に刃を向けていた母は、私に対しては虐待という手段をとった。ヒステリックで攻撃的、泣くかわめくか両極端な母に幼い頃こそ恐怖し、理解が及ばなかったが、彼女が亡くなってから沢山のことを学んだ。恐怖からくる言動だと思えばなんて不器用な人だったんだろうと哀愁の方が強くなった。許せるわけじゃないけれど、やるせなかった。母が最後まで手に入れられなかった安心感を私は得てしまった。母は一人で怖い世界と戦って死を選んだのに、私は生きやすさを見つけてしまった。幼い私は母に安心を与える存在にはなれなかった。なにもかも手遅れだけれど、苦しかった。

自分を認めてあげることが昔よりも難しくなくなったけれど

25歳になってしまってからは半ば自暴自棄になりつつも母のために生きたいと思った。彼女が同じ歳の時に何を感じ、私たち家族に何を残したのかを形にしたかった。そうして随筆を沢山書いて、思い出したくないことを引っ張り出したり、悲しい思いをしながら一つの作品を仕上げた時にもう二度とこんな苦しい思いなどしたくないと一週間寝込んだ。書きたいというエネルギーと衝動はその時から自然と遠のいていった。

自分のための人生なんてないと思っていた。産まなきゃよかったと言われてきた私が、生きていける世界なんてないと思っていた。なにもかもうまくできない私が、そのままでいいよと言われることなんてないと思っていた。大人になるにつれ母が私にかけた言葉は周りの言葉で上書きされて薄れていった。彼女が望んだルートでなくとも楽しく生きればそれが私の人生である。自分で自分を認めてあげることが昔よりも難しくはなくなっていって楽しさを感じ始めた。だけれどもずっと母を否定しているようで苦しかった。10年前に母を置き去りにしてきたようで寂しかった。

10年経ったけれど、私は元気に生きていきます

だけど、そろそろ私は私の人生を歩みたい。

五体満足に生んでくれたのに、障害者になってごめんなさい。
いい学校に入れてくれたのに、良い大学、良い会社に入れなくてごめんなさい。
ママの言うことが聞けなくて、ごめんなさい。

でも、生き延びちゃったから。生き延びちゃったから、これからも生きることにしたよ。ごめん、私は大人になっちゃった。ごめんなさい。

本当はママもここへ連れてきてあげたかった。世界は思ったより怖くなくて、そのままでもあなたが好きだよって言ってくれる人がたくさんいること、ママにも気付いてほしかった。だからすごく悲しいけど、過ぎ去ったことはもう仕方ない。

今年の冬は、おかえりと言ってくれる家族がいます。だから私は大丈夫。ママ、10年経ったけれど、私は元気に生きていきます。