双子の弟が、死ぬほど嫌いだった。わたしたちは、大袈裟ではなく憎み合ってきた

一緒に生まれてきたはずの双子の弟が、死ぬほど嫌いだった。わたしたちは、大袈裟ではなく憎み合ってきた。物心つく前から。
なんで嫌いになったかとか、理由なんて思い出せない。気がついたらただただもう、お互いの存在が生理的に無理になっていた。
中学受験に失敗した挙句いじめに遭って不登校になって退学して「頭の悪い」中高一貫校に転校したクセにそれでもなんだかちゃらちゃらと生きているわたしを弟は見下していたし、ゴジラだとかウルトラマンだとかいかがわしい変なアニメだとかばかり観ている「オタク」の弟をわたしは気持ち悪いと思っていた。
親や親戚、教師、同級生など、周囲の人間は逐一わたしたちを比較した。
算数は弟くんの方が得意なんだね、でも国語はチカゼの方が点数が良いよね。弟くんはおとなしくて素直だけど、チカゼは聞き分けがなくってわがままだよね。弟くんの方が偏差値の高い中学に通ってるんだね、でも英会話教室のクラスはチカゼの方が上なんだね……こんな具合に。挙げるとキリがないくらい。
彼のものを食べるときの咀嚼音とか、アトピーの体をかきむしる仕草とか、こちらに向く組んだ足の裏とか、ねっとりした声とか、親戚の前でわたしの成績を嘘をついてまで悪く報告する意地の悪さだとか、何もかもがおぞましかった。
わたしは彼を極力無視しようと努めていたけれど、彼は何かとわたしに突っかかってきて、それでいつもわたしたちは激しく罵りあった。殴り合いの喧嘩も、成人したあとまで続いた。
それでも、両親や親戚はわたしたちに言う。「たった1人の姉弟なんだから、仲良くしなさい」「親が死んだら頼れるのはお互いだけなんやで」と。
どうして、たまたま一緒に生まれただけなのに、たまたま同じ瞬間に同じ母体の子宮に着床しただけなのに、ただそれだけの関係なのに、問答無用でわたしと彼は仲良くしなければいけないのだろう。
どうして、誰も彼もがわたしと彼の関係性に口を挟んでくるのだろう。
どうして、みんなわたしと彼のどの部分がお互いより優ってて劣っているとか、そんなことが気になってしょうがないんだろう。
みんな、わたしと彼がどんなに仲が悪くても、憎み合っていても、わたしと彼とはまったく別の個体だということをまるで理解していなかった。わたしと彼が「今」どれだけ本気で嫌いあっていても、いずれ仲良くなる日が来ると、信じて疑わなかった。そうあるべきだとさえ言った。
双子、というものを、この世界の人は、何かとくべつに深い絆で結ばれている神聖な関係だとみなしているようだ。他の誰にも分かり合えない気持ちを共有できる、魂の片割れだと、本気で思っているみたいだった。でも、それは幻想だよ。
たとえ血が繋がっていても、家族でも、相性の良し悪しはやっぱりある。わたしと彼は、不幸なことにめちゃくちゃに相性が悪かったのだ。こんなに相性の悪いわたしたちなのに、なぜだかたまたま双子としてこの世に産み落とされてしまった。
弟よ、君のことを好きになれなくて、愛せなくて、理解できなくてごめん。もう何年も会っていないし、わたしの結婚式にすら呼ばなかったけど、今でもわたしは君の顔を思い出すだけで、はらわたが煮えくり返る。それはきっと、君も同じだろう。そんな気持ちを味あわせて申し訳ない。
親戚伝いに、君がわたしの夫に興味を持っていると聞いた。でもね、わたしは夫を君に会わせる気はない。一生ない。ごめん。わたし自身、君と次に顔を合わせるのは、たぶんきっと、父か母の葬式だろう。
だけど君は、そんなことを気にしなくていい。わたしがいくら君を嫌いでも、君を理解しなくても、軽蔑していても、君の良さをわかってくれる人はいると思う。わたしの評価なんて、君は気にする必要はない。
そろそろわたしたちは、お互いを解放しよう。自分自身の幸せと、自分自身を愛してくれる愛すべき人だけを見つめて、別々に生きていこう。
もうわたしたちを繋ぐものはない。わたしたちはお互いにがんじがらめに縛られなくたっていいのだ。わたしは君を忘れて、君はわたしを忘れて、まったく別の人間として、これから先生きていこう。
わたしのことを気にする必要はない。わたしが生きているかさえ、知る必要もない。わたしも、君が生きているかどうかすら、気にせずに生きていこうと思う。
生まれてからずっと、苦しめ合うだけの関係にしかなれなくてごめん。君の片割れになれなくてごめん。愛せなくて、ごめん。さようなら。
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