二年ほど前、平日に休みができたので映画館へ行った。
 平日の昼間、それも新作ではなくかなり前のヒット作の企画上映だったからか、お客さんは十人もいなかった。以前にも観たことがあったが、原作を何度も読むくらい好きな映画だったから、とても楽しみにしていた。

「保護者の方は注意しないのかな」大きな声で話している子が気になった

 ずっと話している子がいるなと思ったのは、映画が始まってすぐのことだった。小学生くらいだろうか、割と大きめの声で話したり笑ったりしている子が、斜め前のほうに座っていた。笑い声だけならまだしも、この後の展開についても話している。
 別にいい。私はこの映画を初めて観るわけではないし、原作も読んで内容も全部知っている。ネタバレされた、なんて全く思っていない。
 ただ、少しうるさいな、保護者の方は注意しないのかなと気になってしまい、つい何度か目線がいってしまった。私の近くには二人組が座っていたのだが、彼らもその子を気にしている様子だった。一度、保護者の方と目が合ったようにも思うが、顔も分からないくらい薄暗い中でのことだったから定かではない。

 物語が終わり、流れるエンドロールを見ながら余韻に浸っていたとき、ふと気づいた。静かだ。その子がいなくなっている。そういえば、クライマックスのシーンではその子の声が気にならなかった。私が映画に集中していたからかもしれない。でも、もしかしたら、その子はクライマックスの前に出ていったのかもしれなかった。

ただの非常識?もし私が彼らの映画の楽しみを奪ってしまったとしたら

 ただ単に、非常識な親子だったのかもしれない。
 でももし、暗い場所でじっとするのが苦手な子だったら。平日の昼間に何年も前の映画、あまり人がいないだろうからと、せっかく久しぶりに、あるいは初めて映画館に来ていたのだったら。
 これらはすべて想像で実際はどうなのか分からないが、もし後者だったら、私が向けてしまった視線のせいで肩身の狭い思いをさせてしまったのは間違いない。私が近くの二人組の様子に気づくくらいだから、その子の保護者の方も、私の視線、マイナスの感情を含む視線に気づいていたはずだ。あれ以来、映画館へ行くのを止めてしまったとしたら、その原因の一つは確実に私だ。

「事情があるかもしれない」ことを想像することが出来なかった、あの日

 今でもこの出来事を度々思い出し、可能なら直接謝りたいと思うほど後悔する。しかし同時に、謝りたいのは私のエゴではないかとも思う。肩身の狭い思いをさせてしまったことを申し訳なく思っているのか、それとも罪悪感や後味の悪さを消したくて謝りたいのか、自分でも分からない。
 分からないけれど、たとえそれがエゴだったとしても、私はこの出来事をこれからも忘れることはない。謝って救われるのは私だけ。それでも「謝らないといけないことをしてしまったのだ」ということは、ちゃんと覚えておく。私が向けた視線は取り返しのつかないものだから、せめてもう二度と同じことをしないように。

 あのときは、本当にごめんなさい。事情があるのかもしれないと考えることもなく、ただ迷惑だなと思ってしまいました。冷たく厳しい視線を向けてしまいました。本当にごめんなさい。