実のところわたしは、きちんとふられてさえいない。そのことに長い間、怒って、怒って、怒り続けてきた。だから、文章にすることで彼女への恋着を成仏させようと思う。

わたしが焦げるように恋をしたその相手、大好きで大好きで、でももう二度と会えない、1つ年上の女の子について話させてほしい。

予備校で出会った彼女は、特別で素敵な女の子だった

もう10年近く前のことになる。わたしは19歳で、大学受験に失敗して予備校に通っていた。彼女とは、そこで出会った。同い年の高校を卒業したばかりの子たちより、ぐんと垢抜けていた彼女は、獣医学部志望の2浪目だった。彼女は年齢を気にして、初対面で敬語を使ったわたしに「タメ口でいいよ」とふにゃりと笑った。

だれよりも特別で、だれよりも素敵な女の子だった。こんな素敵な女の子は見たことがなくて、わたしはずぶずぶと彼女にのめり込んだ。彼女もわたしを気に入ってくれて、わたしたちはいつしか予備校内で自他ともに認める“セット”になっていった。

たぶん、わたしたちは少し似ていた。声は人一倍大きいくせに集団に馴染めないところとか、神経がいささか過敏すぎるところとか、暴力を振るう親を持っていたところとか。

彼女には好きなひとがいた。でも、そのひとには恋人がいた。それでも諦めが悪い彼女は、いつもそのひとを追いかけ回して、それで疲弊してしばしば自習室前の廊下で泣いていた。わたしの役目は、彼女がいかにそのひとの恋人よりもきれいで、魅力的で、賢いかを彼女に対して説明することだった。

彼女の様子がおかしくなり始めたのは、いつからだったろうか。毎日授業後は、予備校が閉まる21時まで自習室で勉強し、その後終電まで近くの夜闇に沈んだ公園で、振るわない成績だとか彼女の好きなひとのことについておしゃべりするのが、わたしたちの日課だった。それなのに、夏を過ぎたあたりから、21時を待たずに彼女は自習室を抜け出すことが多くなった。それも、わたしに何も言わずに。

予備校を卒業して大学生になっても、わたしたちは「セット」のまま

そのことが不満で、彼女からなにか言ってくれることを待っていたのだけれど、彼女はわたしになにひとつ打ち明けてくれなかった。痺れを切らしたわたしが、空き教室で2人きりでお昼を食べているときに、とうとう切り出した。そのお昼の時間は、わたしが彼女を独占できる時間だった。

「もしかして、おとこ?」とわたしは訊いた。振り返れば下衆な言い方だと、我ながら思う。でも、そんな口ぶりが“大人”の彼女と釣り合うために、わたしには必要だったのだ。

彼女は意味深に笑い「付き合ってないけどね」と答えた。そこから得たわずかな情報は、相手が複数いること、そのだれとも交際はしていないということだけだった。それを聞いたわたしは、トイレの個室で声を殺して泣いた。そんなふうにダメージを受けていてもなお、わたしは自分の感情が恋だとは気が付かなかった。その年代によくある、女の子同士の執着だと疑っていなかったのだ。その勘違いが、のちの決別を引き起こす。

彼女は複数の相手と関係を持ちながらも、予備校内で彼氏を作った。夏から秋にかけて1人目と付き合い、間を空けずに受験が終わるころまで2人目と付き合った。その2人とはわたしも友達だったから、余計に気持ちはよじれた。

彼女を盗られたような気がしたし、なにより、彼女の口から彼らとの内緒話を聞かされるのは堪えた。ただ、彼らほどには彼女の方は、入れ込んでいないことが救いだった。結局はその彼氏たちも、彼女が自習室を抜けて抱かれに行く相手と同様、彼女の好きなひとへの気持ちを紛らわすための存在に過ぎなかったから。

予備校を卒業し、大学生になった後も、もちろんわたしたちは“セット”のままだった。それこそ恋人同士のようにまいにち連絡を取り、休みを見つけてはしょっちゅう会った。

あるとき、どういう経緯だったか、彼女の元カレ2人とわたしの3人で遊ぶことになった。わたしは特に深く考えることなくその会に参加し、2人に今でも彼女と仲良しであることを自慢した。優越感に浸りたかったのだろう。しかし、後日なんの気なしに彼女にその話をすると、烈火のごとく怒り狂った。

「なぜあなたが、私の元カレと会ったりしたの? 関係ないじゃない」と、詰め寄る彼女にわたしは憮然としたけど、彼女に嫌われるのが怖くて必死で謝った。それでも、彼女はわたしを許さなかった。あんなに2人でべったりと過ごしたのが嘘のように、彼女とはそれきり連絡が取れなくなった。

彼女を「真に理解する」こともできないくせに、わたしは傲慢だった

そのことをずっと怒って、悲しんでいたけど、10年近くたった今なら、彼女の気持ちがわかる。彼女はわたしを、だれよりも近くにいる親友だと思っていた。

でも、わたしは彼女の恋人になりたかったのだ。わたしは彼女の元カレたちに同族のような意識を持っていたけれど、彼女にとってはそれ自体が裏切りだった。自分の味方でいるべきわたしが、自分が愛想を尽かした元カレたちと仲良くしていたのだから。

そのころは幼すぎて、自分の感情が恋だということも自覚できていなかったわたしは、彼女を真に理解することもできないくせに、彼女のいちばん近くにいるのは自分であると誇示するほど傲慢だった。ふってすらもらえなかったけれど、それすら自業自得だろう。

ただひとつだけ、願わせて欲しい。もう二度と会えないけれど、これ以上ないほどに嫌われてしまったけれど、あなたには幸せでいてほしい。自分を損なうような恋愛はしないで、自分の幸せのために、あなたを愛しているひとと生きていてほしい。これも独りよがりな感情なことは、さすがにわかっているけれど。

ああ、あなたに、ちゃんと、ふられたかったなあ。