1日我慢して、2日目がきて、3日経ったら、彼に連絡しなくても耐えられる体になるのだろうか。
タバコに火をつけながら、彼を忘れられる日がくることを待ち望む。

マッチングアプリのプロフィールの中で見つけた「小説家」の文字

飲み屋があまりにも早く閉まるこのご時世、暇を通り越してマッチングアプリを始めた。
ぼけっとしながら左右にスワイプを繰り返していると、ヤリモク、セフレ探しなど適当な言葉で溢れかえる数多のプロフィールの中に、「小説家をしています」という文字を見つけた。

しょうもないの中に突如現れる輝き。
小説家なんてこんな場所にいるわけないだろうと冷静を装う反面、面白い人に出会えるのではないかと期待している自分がいた。マッチしてからは一瞬で、すぐに会ってみよういう話になった。

全身真っ黒な服を身につけ、眼鏡までもが黒縁。不健康な少年のような人が現れた。
どんな人なのか探り探りの状態に、この場を逃げ出したい気持ちが少し芽生える。それでも店に入り隣同士で座ると、彼は伏し目がちに物事を話し始めた。

知り合ってからおよそ30分後のこと、脈絡もなく突然「僕、子どもの頃に父親から虐待されていて~」と彼は言った。そんなエピソードを、努めて明るく話す姿からは胡散臭さが漂った。

口ばかり達者な彼に、いつしかわたしは同情するようになった

よくよく聞くと小説も頭の中で書いているという。
なんだそれは、作曲家が鼻歌でも歌っているようなものじゃないか。

それでも私は彼の話を止めることなく聞き続けた。本当に虐待されていたのか、ただの被害妄想なのか、真実を知る由もないが、もし本当だとしたら、幼少期の経験から抜け出せていない彼を引き上げてあげたいと思ったし、ただの嘘だとしたら、そんなことで他人の気を引こうとする彼を気に入るきっかけを見つけたかった。

彼は私のことをすぐ好きになってくれた。
私のことを簡単に好きになったように、他の女のこともまたすぐ好きになるのだろうか。
疑心暗疑のまま彼と会う日々が始まる。

彼は口ばかり達者だった。
小説は自分の好きな一部の文節だけを読むものらしい。どの小説も結局は世の中の一部だからと言う。

起承転結を考えて考えて考え抜いた先に一冊の物語を書き上げている世の中の全小説家に同情した。こんなことを言う彼が自分自身を小説家とうたっているのだから。
でも何よりも私が同情したのは彼だった。

彼がわたしに飽きても、彼に対する同情のような愛情は消えないまま

私を好きという彼からは、世の中を斜に見るような、今存在している物事全てを疑うような哀しさが漂っていたからだ。

私は彼に好かれていることを疑っているうちに、彼の寂しさの根幹のような部分に寄り添いたいと思うようになっていたのだ。側から見たら誰よりも子どものままで、全く成長できていない彼から発せられる仰々しい思想や哲学、言葉が愛おしかった。

何とかは盲目というが、実際、目が見えないどころではない。耳も聞こえず、言い返すこともできない程に、気づけば私が彼を好きになっていた。あいつは胡散臭いと言う大切な友達の助言も一蹴してしまう程だった。

結局のところ、彼がわたしに飽きるのは一瞬だった。すぐに別の女も見つけた。
それでも私の彼に対する同情のような愛情は消えないままで、今でも彼を救ってあげたいと思っている。きっと私は彼を応援したいと切に願うファンになり下がったのだ。

近いようで遠いファン。絶対的な一定の距離が存在するファン。
もう彼の隣には置いてもらえないことを実感しながら、最後の抵抗として、頭の中で小説を書く彼との思い出をここに綴るのだった。