あの日心奪われたストールは、いつも一緒で優しく包み、守ってくれた

たまに探してしまう、ストールがある。
3年前の私の、最後のお洒落と、かっこつけと、必死さが詰まっている、ストール。
必死に頑張っていた、社会人3年目のあの時。
仕事を頑張るためにもおすすめよって、香水を友達に勧めてもらった24歳の私がいた。
「朝に少しだけつけて、香りがするのを感じながら仕事をすると頑張れるんだよね」
そう語る友達と、初めて買った薔薇の香水。2本目を迎える頃には、仕事着以外の服を買う楽しさを覚え始めていた。
少ない休日に友達と初めて入ったH&M。ドキドキしながら店内を進んだのが懐かしい。
友達がお目当てのものを探している間に、私はそのストールを見つけた。
緑が映える柄に、白地のふんわりとした、大判のストール。
そのストールから目が離せなかった。
でも、手は伸ばさなかった。
当時は、ちょっとしたお金も研修や仕事着に消えていて、自分のものを買うなんて、よっぽどの理由がないとできなかった。
お目当てのものを手に入れた友達を見送った後、またストールの前に気づいたら足を運んでいた。
ふわふわとして、とっても綺麗。
そっと触りながら、ストールの前でひたすら考えていた。
「あの上着と合わせてもいいし、あのコートとも合うよね……」
「この金額だし……!」
一生懸命考えて、手が離せなくなったストール。
久しぶりに、自分のために、買っていた。
その日からそのストールは、私のお気に入りの一枚であり、大切なお洒落の一部であり、時には仕事にも一緒に行く“大事な戦闘服”の一部になった。
朝には丁寧に身だしなみを整えて、香水を少しつけて、最後にストールを巻く。
仕事中、ストールからも香水がほんのりと香ってきて、なんだかとってもかっこいい私に
なれたような気がして、頑張れた。
頑張って、頑張って…
当時の私は、頑張りすぎていた。
今思えば、頑張り方を、間違えていたのだと思う。
大好きなご飯の味がしなくなって、気づいたら…私は体も心も、壊してしまっていた。
理由は色々あるけれど、特に覚えているのはある月曜日の朝。
いきなり仕事に行けなくなってしまった。
香水をつけることも、ストールを巻くこともできずに、ひたすら体操座りで泣いていた。
なんでその姿勢なのかなって、今では疑問に思うけど、ひたすら無言で泣いていた。
「もう頑張りたくない……」
勇気を出して職場に電話して、また泣いて、ひたすらに寝る。
でもそれじゃダメだと、仕事場に行こうとした。
就業時間が過ぎても仕事場の駐車場で、動けなくて、泣いていた。
「もう頑張れない……」
仕事を辞めることにした。
でも、辞めるためには、上司たちと話をしないといけないことになった。
最後に話をするのは、苦手な上司。しかも豪華な応接間で。
私のための、最後の話し合いだった。
だけど、私はもうボロボロで、会いに行くことすらもう…申し訳なくて、怖くて、不安で、仕方なかった。
「怖い…」
乗り切るためにも、手に取ったのはストール。最後の装備だ。
なんとか服を着て、自分を守るように首に巻きつけて、不安になったらギュッとストールを握りながら、約束の部屋にまで向かった。
話し合いの最中、言葉はうまく出てこないのに、涙は出てくる。
長い長い話し合いの間、ストールが全部、受け止めていた。
今では香水をつけることもなくなって、戦闘服もほとんどない。
あれから色々あって、私のように心も体も壊してしまった人や、そうなる前のサポートをする仕事をしているから。
でも、ふと、たまに思い出す。
あの時の未熟でボロボロだった私のこと。
あの時の私と過ごしてくれた、あのストールのこと。
あの時、かっこつけさせてくれて、守ってくれて、ありがとう。
あなたみたいな存在に、私もなりたい。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。