私の母の作るご飯は、お店で食べるどんな料理よりもおいしい。

塩昆布のクリームチーズ和えパスタ、いちじくの入ったサラダ、レモンをしぼって食べるきしめん、スパイスのきいたガパオライス。
一瞬にして出てくるそれらは、いつもまるで魔法がかかっているかのようにおいしい。

仕事の人間関係やノルマに疲れ、なにもかも放り出しアパートを出て、私は実家に帰った。
身も心もクタクタになり、お腹も空かなくなっていたのにどうだろう。
母が作ってくれたご飯を食べたとき、私はそのおいしさに心が震えた。

ほんとうは、実家に帰りたくなかった。とっくにわかっていた敗北を認めるような気がして。

当時の私は、人と話すことが怖かった。頬はみるみるこけていった。SNSツールも突然辞めてしまい、非常識だとか変わっている子だとか思われたかもしれない。
それでも独りになりたかった。この先、傷つくくらいなら1人でいいと思った。

心が壊れコミュニケーションもろくにとれない、とり方を忘れてしまった私の、本当は声に出したかったこと、言わなくてはいけなかったこと。
母の料理を食べたとき、母にはそれが最初からお見通しだったのだとわかった。

まだあなた生きるのよって、もう一度立たせてくれてありがとう。
面と向かってはなんだか難しいけれど、実は母に伝えたいことだ。