マッチングアプリで絶賛のプロフィール。書くことが好きだと気づいた

街がクリスマス色に煌めき始めた11月頃、友人達が恋愛においての出会い方を議論していた。その中で、今どきの恋人の作り方――マッチングアプリなるものが猛批判されていた。
私はアプリを使ったことはないものの、嫌悪感があるわけでもなかった。批判されている様子を見て私の中で湧き上がるのは、知的好奇心である。
私は好奇心旺盛で、たとえばセミを食べてみたり、1人でメイドカフェに入ったこともある。そんなに否定されているのなら、逆に気になってしまう。
押すなよと言われれば押したくなる、ダチョウ倶楽部理論である。
帰宅後、私はすぐにマッチングアプリをダウンロードした。
まずやることは男性を漁ることなどではない、プロフィールづくりである。
マッチングアプリでまず目に入るものは写真だ。かなり重要なものだと推測できるが、今回は出会いを求めているのではない。私はアプリがいかなるものかを知りたいだけである。
となると、顔出しはリスクしかない。写真を何も登録しないのは真剣に恋人を探している方々に失礼だと思い、せめてもの地層の写真達を設定した。
さて、次は自己紹介文であるが、ここで1つの煩悩が生まれる。
好奇心を満たすために始めたアプリであるが、恋人いない歴も1年になろうとしていた私である。来月のクリスマスなる日にも私にあたたかいのは便座だけであろう。プロフィールを設定するうちに、聖なるあの日までに恋人ができたらな……なんて浮かれた気持ちが芽生えてきたのである。
そうとなると、自己紹介文は張り切るしかない。千文字という制限の中で、私を如何に表現するかの勝負である。
自分の長所、人間性は直接書かずに、それでいて伝わってくる言葉を丁寧に紡いだ。時にはユーモアを入れるのも欠かさない。煩悩を抱えているとはいえ、他の女の子達には色々な面で敵わないのは分かっている。それならもう自由に書いてしまえ。多くのプロフィールを見て疲れてしまっている人を楽しませられたらそれでいい。
完成した自己紹介は我ながら傑作であった。プロフィールを登録し終えた数時間後、私がもらったいいね数は女性ユーザーの平均を軽くこえていた。
一般的なSNSと違い、いいねが押せる回数は限られている。このアプリには地層の写真に惹かれていいねをする地学徒が溢れているのか?いや、理系の中でも希少な地学徒がこんなにいるはずがない。顔出しを一切しないどころか地層の写真しか使っていない私に、課金している男性がいいねをするのは奇妙に思えたが、嬉しくもあった。
……私、もしかして自己紹介の才能があるのでは?そうとなれば、自己紹介のゴーストライターでもやりたい心持ちである。
500円で一週間以内に100いいね増加させます!達成できなければ返金します……とかで一商売できないだろうか。金の亡者方向への煩悩も顔をのぞかせた。
2、3週間後には人気ユーザーとされる数のいいねをもらっており、私は褒め言葉の数々にただ圧倒されていた。
「文章で食っていけますよ」
「こんなに面白い自己紹介見たことないです」
「頭いい人なのか芸人なのか分からないwww」
かつてこんなに多くの人に褒められたことがあっただろうか。もちろん出会いの場としてのお世辞で、オーバーに褒めてくれていることは承知している。それでも喜んでしまうのは仕方がない、私モテたことないし。
思えば昔から文章を書くことが好きだった。
読書感想文では何故この作品で感想文を書きたくないかを綴って現代文の先生を困らせたり、スパムのDMに短編小説を返信してみたりするくらいで大層な物を書いたことはないが、文章は小さな頃から私の拠り所でもあったはずだ。
大学に進んだらいろんなコンテストに応募してみようと意気込んでいたのに、いざ入学すると実験やレポートに追われ、毎日をこなすことで精一杯であった。
マッチングアプリは忙殺され、見失っていた自分の大切なものを思い出させてくれたのだ。
結局、クリスマスに私を温めたのは便座と……課題のために熱くなってくれたPCだけであった。しかし、私はマッチングアプリを入れて自信をつけることができた。
恋愛の自信ではなく、文章を書くことが好きだと気づけたことによる自信だ。
本末はスライディングしているがこれはこれで良い。打ち込むことがあると、生活にハリが出るものらしい。相変わらず理系大学生に休息の間は少ないが、充実していそうだねと言われることが増えた。
友人達に伝えたい、マッチングアプリは悪いものじゃなかったよ。それは文章というプレゼントをくれたサンタクロースなのだから。
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