幼いころから本をたくさん読む子供だった。
常に本を持ち歩き、暇さえあれば本を読む。続きが読みたいがために乗り物の酔いに日々抗い、読みながら歩くせいで電柱に頭をぶつけたことは数知れず。本に没頭しすぎて知人が声をかけても気づかないことも度々。

転校し、疎外感を感じる日々。そんな時に、この本に出会った

きっかけになったのは、友達に借りた一冊の本。確か、「パスワードは、ひ・み・つ―パソコン通信探偵団事件ノート」(松原秀行/青い鳥文庫)だと思う。
5人のミステリー好きの小学生がインターネットを介して出会い、電子探偵団団長であるネロの元、電子探偵団として集い、最初はインターネット上で謎解きをするだけだったけれど、団員の一人が現実世界で事件に巻き込まれたのをきっかけに。現実世界の謎も解いていく物語である。

私がこの本に出会ったのは小学生の頃。転校して、少し経った頃だったと思う。
少しずつクラスに慣れてきつつも、ふとしたときに疎外感を感じる日々。学年に1クラスしかないということもあったのだろう、途中から入ってきたよそ者の私を一見受け入れてくれているかのようなクラスメイトは、ふとしたときに悪気なく、私との間にラインを引いた。
たぶん私は、寂しかったのだと思う。そんな時に偶然、友達が貸してくれたのがこの本だった。

寂しさを埋めるように、駆け足であっという間に本と親友に

当時、インターネットになんて触れたことのなかった、家と小学校がほとんど世界のすべてだった幼い子供にとって、自分でパソコンを使って違う学校のこと友達になってしまう彼らは、ちょっと特別で凄い子たちのようでカッコよかった。
それとたぶん本の中にたくさんのパズルやクイズが出てきたのも大きかったと思う。ただ読むだけの物語ではなく、自分も探偵団のメンバーのように物語に参加できるのが大好きだった。難しいトリックは出てこないので、推理小説初心者の私でも十分に楽しめる。

それからの私は寂しさを埋めるように駆け足であっという間に本と親友になった。望めば必ず寄り添ってくれる彼らは、私にとって最強の友人だったと思う。
おそらく児童書レーベルである、青い鳥文庫の本はほとんど読んだのではないだろうか。
「パスワード」シリーズ、「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズ(はやみねかおる)のようなジュブナイルミステリー作品から、果ては「シャーロック・ホームズ」シリーズ(コナン・ドイル)まで。ミステリー好きになったのはきっと、初めての親友が謎解きを好きな友人だったから。

本棚の奥に隠されたかつての友人の傍に、いつかもう一度立てたら

あんなに夢中になって読んでたのが噓みたい。最近の私はすっかり本が読めなくなってしまった。正確には物語が読めなくなってしまった。
数年前、1度心が疲れてしまった後遺症は大きくて、私は私の友人たちとなかなか仲良くなることが出来なくなってしまった。だから、かつての自分がひどく羨ましい。
あの頃、夢中になってページを捲って、物語の世界に没頭することが出来たあの時間は、今でもキラキラと輝いている尊くて素敵な思い出だけれど、時に今の本を読めなくなってしまった自分を責めるようで、やっかいである。たまに少しだけ、憎くてしょうがなくて悩ましい。

読みたくても本を読むことが出来なくなってしまった私の本棚の奥には、一冊の本がある。
本棚の奥の奥。他の本に埋もれて隠されてしまった、灯りにも照らされない場所にある。
今の私にはページを開く勇気はない。だって君にまで距離を置かれてしまったら、きっとその事実に耐えることなんてできないから。だけど手を放す勇気もない。
いつかもう一度、君の傍に立てたらいい。