男性が贈り物をする海外のバレンタイン。ファーストキスはチョコの味

1月、アメリカに留学中だった私はフィリピン人の彼に出会った。
向こうでできたアメリカ人の女友達が、気になっているという男性と会うと言うので、付き添って行ったアジアンフェスティバルに彼も来ていたのだ。
こんがり日焼けした肌に、ゴールドのアクセサリーと黒のサングラス。第一印象は「Gangっぽい」。私が惹かれそうなBad guyだ。
4人で顔合わせして軽く自己紹介をしたところで、早速フェスティバルを散策することに。今日は女友達とその意中の男性とのデートなので、二人は連れ添って前を歩き、自動的に私と彼が後ろからついていく形になった。
初めて会う人なので、なにを話そうか。ぎこちない距離感で出展しているお店を見て回る。
お店の人とフレンドリーに雑談する姿にちょっと和む。その中に和傘を売っているお店があった。
今度学校のダンスコンテストに出る時の小道具にちょうどいい。私は赤い和傘を購入した。日本から来たと言ったら日本のアニメが好きという話になったりして、自然と会話が生まれた。しばらくしてまた4人で合流して、買った傘をさしながら記念に撮影大会したりして解散することに。
男子二人の車まで見送った別れ際、彼に「電話番号を教えて」と言われて交換した。家に帰ったあと、彼からメッセージが来た。見ると「今日はずっと君のことを見ていた。気になっている」とのこと。
そんなに深い会話もしてないのにな……どうやら一目惚れだったらしい。彼はずっとクールに振舞っていたから好意に全く気づかなかったけれど。私も嬉しかった。
それから放課後や土日に会うようになった。
彼が公園でバスケするのを見たり、映画を観に行ったり、彼の家に遊びに行って妹に会ったり、私の友達も誘ってゲームセンターで遊んだり。「ファミリー」を大切にしている彼は、友達や家族に積極的に会わせてくれて、コミュニティに溶け込むのも時間の問題だった。
タガログ語で会話しているときは何言っているか分からなかったけれど、彼は「すぐにファミリーの一員になれるよ」と言ってくれた。クールだけど愛情深くて優しい彼のことを、私も好きになっていった。
そんな「デート期間」がしばらく続いた2月の中旬。街はバレンタインムードが漂っていた。
日本では女性から男性へ贈り物をするけれど、どうもアメリカでは逆らしい。男性から女性へ花やチョコレートを渡すというので、いつもの習慣で彼に何かあげたいけれど「郷に入っては郷に従え」で、どんな形なのか様子を見ることにした。
2月14日。いつものように「今夜空いてる?」と急なお誘いが来た。
どこへ行くのかも分からないまま家までお迎えが来て、二人乗りの車でカジュアルな夜のドライブに出発した。
向かった先は地元のモール。店にはたくさんのハートがあふれていて、カラフルな花やチョコやバルーンが見る人の心をうきうきとさせる。
「お母さんと妹にあげるんだ」と言って買い物を始める彼。すてきだなと思いながら時々一緒に選んであげた。
買い物が終わり、夜もすでに遅く明日は学校だったので、そのまま帰ることに。
私の家の前まで着いて「送ってくれてありがとう」と伝えると、トランクからギフトの一つを取り出して「これは君に」とくれた。「え、私に?」と少し驚きつつ嬉しく受け取った。
かわいい花やバルーンのついたバスケットの中に、いろいろな種類のチョコレートがたくさん入っている。「こんなに食べられないよ〜」と笑いながらも私の心は踊っていた。早速一つずつ開けて一緒にチョコをほおばる。
私のホストマザーが厳しいことは彼も知っていたので、長く話していると怪しまれるので家に入ろうとしたそのとき。
玄関前で彼が突然私にキスをした。一瞬何が起きたか分からなかったけれど、柔らかくて厚い唇がそっと私の唇に触れた。
おっと、これは私のファーストキスではないか。それは突然に。その瞬間、ガレージのライトがパッと点いた。OMG、きっとホストマザーだ……まさか窓から見張っていたとは。
彼は「まじか」と言って素早く別れのあいさつをして車に乗り込んだ。チョコレートのバスケットを抱えて家に入った私は、それをながめながら、しばらくぼーっと高揚感に包まれていた。
ファーストキスはチョコの香りがした。もらったチョコを毎日食べる度にバレンタインの日を思い出して、私はファーストキスの余韻に浸っていた。
それはドラマや映画で観るどんなシーンよりも私の胸を高鳴らせた。
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