「どうしてこんなにクズなのか」シリーズの中に、箸休め男というものがある。
それは、付き合うまでに至らなかったものの、強烈なインパクトを残して去っていった人たちの話だ。
その中でも「ネットビジネスに勧誘してきた男」について書いていこうと思う。

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当時の私は、仕事も恋愛も上手くいかず、正直この先の未来に希望はなく、「もう、どうでもいいや。その場だけ楽しければいいや」と自暴自棄になっていた。そんな時にやっていたマッチングアプリで彼と出会ったのだ。
年下だった彼は、私にはないほど情熱的で、人生に希望を持ち、毎日を全力で生きているようだった。私はというと、やりたいことも分からず、ただ流れていく日々に身を委ねることで必死だった。
だからこそ、彼を羨ましく思い、憧れさえ感じていたのかもしれない。初めはLINEだけのやり取りが電話に変わり、会うようになった。
彼は、フリーランスのカメラマンをしながらタロット占いをするという変わった生活を送っていた。
私は占いに興味があり、彼に今後の未来を占ってもらったことがある。内容はあまり覚えていないが、必死に説明書を読む姿と自信たっぷりな言葉に少しだけ違和感を感じていた。

会う頻度が増え、傍から見たらデートだと思うほど親密になっていく。しかし、付き合うことはなく、いつも彼の仕事の合間に会うことが多かった。会うたびに服装やメイクを褒めてくれたり、私のいいところを探しては褒めてくれていた。
今思うと彼の作戦にはまっていたのだろう。ある日のデート中、彼はこんなことを言い出した。
「ねえ、今の仕事辛くない?新しいこと始めたいと思わない?」
そう、私は悩んでいた。保育士を続けることがこの時苦しくなり始めていたのだ。
どれだけ一生懸命やっても認めてもらえず、給料も安いままで、一体何が楽しいのかさえ分からなくなっていた。だからこそ、彼の言葉に動揺を隠しきれなかったのだ。
「そうだね、辛いかな。でも、やりたいことも分からないし……」
そう言うと、「君は、もっと色々なことに目を向けるべきだよ。そういえば、僕の知り合いにいい人がいるから会ってみない?」。
この時点で気付くべきだったのだが、盲目モードの私には分からなかった。彼の言われるがままに、会う日にちが決まり話を聞くことになった。

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当日、カフェで待ち合わせのはずが、急遽、その人が住むタワーマンションに行くことになった。何やら雲行きの怪しさに、さすがの私も不安に思ったが、もう後戻りはできなかった。
彼に連れられ、マンションの下で待っていると、小太りの男が堂々と登場してくるではないか。深々と頭を下げる彼を見て、不安がさらに加速していった。
マンションに入るなり、その男の人の生い立ちを約1時間聞かされた。殺風景な部屋にホワイトボードが置いてあり、とても住んでいるようには見えない状況に、ようやく頭の中で整理ができたのだ。これは、マルチ商法の勧誘だと。
投資という名の賭博のやり方や、勉強料の話までされた時には、怒りでおかしくなりそうだった。少しでも恋心を抱いていた自分に腹が立って仕方がなかった。

あらかた話を聞いた後、私は「やるかどうかは、一回相談してから決めます」と答えると、小太りの男は「今この場で決められない人間は、成功できないよ。即決力が成功の鍵だから」と言ってきたのだ。
しかし、頑なに後日答えると告げると、ようやく諦め、マンションを出ることができた。出た後、彼は大きな仕事を成し遂げたような顔をして一言、「いつか俺もタワーマンションに住みたいな」と言っていた。
怒りのあまり、私は彼に迫った。
「あれは何?もしかしてマルチ商法の勧誘のために私に近づいたの?」
すると、彼は困った顔をして答えた。「ごめん、俺カメラマンって言ったけど、正直、マルチ商法が本業なんだ。それに、もう後戻りはできない。この方法しか分からないんだ」と。
結局、彼はビジネスのために借金までしていたことが話の中で明らかになった。自分で会社を立ち上げたというのも嘘だったことが判明し、全ての収入源はマルチ商法だったのだ。
話を聞いていくと、彼は涙をこぼしながら、「もう、この方法しかないんだよ。だから、これからもマッチングアプリで女の子たちを勧誘する」という謎の宣言をしたのだ。
結局私たちの関係は、この出来事をきっかけに終わってしまった。

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今や、当たり前のようにマッチングアプリで簡単に出会えるようになった。しかし、中には恋心を道具として騙そうとする人もいる。便利になったからこそ、人を見抜く力が必要だと改めて感じた。
これからマッチングアプリで恋をしようとしている人、もしくは既に恋をしようとしている人たちに伝えたいことがある。
優しい顔をして近づくその人は、本当に信用できる人ですか?自分の身は自分でしか守れない。だからこそ、簡単に信用せず、その人を見る人間力を身につけてほしいと思うのだ。