金曜の夜、スーパーやデパ地下に立ち寄り、安くなったお惣菜をたんまり手にできる大人になりたい――。
高校生の頃に抱いた、私の小さな夢。
作家・益田ミリさんが執筆したエッセイ漫画に由来する。

主人公のすーちゃんみたいになりたかった

益田さんのエッセイは、日常生活にひそむときめきや発見がていねいに描写されている。特にお気に入りは、コミックエッセイ『すーちゃん』。

アラサーの主人公・すーちゃんは仕事をしながら、小さなアパートで一人暮らしをしている。そんなすーちゃんは職場で困難にぶつかりながらも、友人とご飯を食べに出かけたり、ひとりでまったりと休日を過ごしたり。

日々を懸命に、大切に、自在に過ごしている姿を見て、「なんて素敵な生き方なのだろう!」と感動を覚えた。仕事をして、おうちを借り、日常を楽しめること。私はすーちゃんの生き方に心奪われていた。

不器用な私は、すーちゃんとは程遠かった

高校生活の終わりにアルバイトを始め、わずかな初給料はメイクやファッション代にパッと消えた。大学生になり、今度はより多くの日にちをバイトに費やした。給料日後は、「少し贅沢したい!」と欲のままに従い、サークルの集まりや旅行代に投下した。もちろん、貯金は増えなかった。

「このままだと全くお金が貯まらない……!」
大学生活半ばにようやく意を決し、手帳の片隅に家計簿を付けはじめた。支出と収入を記載して、ひとり暮らしをはじめた際に欲しいインテリア・食器代として未来貯金を開始。
好きなものに囲まれて暮らす「理想のおとな計画=すーちゃんの暮らし」は、まもなく決行されるはずだった。

社会人になり、仕事と賃貸を手にした私は、すーちゃんと似通う環境を手に入れた。しかし、現実はそううまくは進まなかった。

慣れない社会人生活では思った以上に体力が奪われ、できあいのものを詰め込んだコンビニ袋を抱え帰宅した日々。意識はもうろうとベッドについた。ちょっぴりボーナスが入るとホテルのアフタヌーンティーへ出かけ、はたまた、新作のデパートコスメを手にとった。

鏡に映る私はキレイに、心も満たされていった。しかし未来貯金をしていた頃に抱いたあの儚い気持ちはどこかへ消えていったのだった。

生活環境が変わり、すーちゃんに近づいていく私

数年後に職場を変えた私は、残業がほとんどなくなる。給与は減り、小さなアパートへと引っ越した。まもなく新型コロナウイルスの影響も重なり、おうちで静かに暮らす時間が増えた。家の近くにある100円・300円ショップに並ぶかわいい雑貨を眺めたり、特売日にスーパーでお披露目されるお菓子を手にしたりするのが楽しみになった。

そんな中、2022年、次々と食品の価格高騰が訪れる。大好きなパンの購入を控えねばと思いつつ、パンのコーナーについ立ち寄ってしまうのは変わらずだった。

とある夕刻、少し高めの食パンが半額になっているのを見つけ、思わず買ってみた。
「せっかくなら、よりおいしく食べたいな」
特売だったアボカドとチーズも合わせて購入。具材はいつもの乱切りではなく、ていねいに薄切りにスライスしてみた。感覚で回していたトースターのメモリも、このときはきっちり時間通りに合わせてみた。こんがり焼けたパンはなんとも香ばしい。アボカドとチーズを均等に挟み、ホワイトの器に盛り付ける。

「なんだかカフェっぽいかも!」
流行りのおしゃれカフェにありそうな、さながら手作りワンプレートが完成。なんだかうれしい。ついひとり心の中ではしゃいだ。小さなアパートの一室に広がる、いつもと違うプチ贅沢な景色。私は多幸感に包まれた。

「もしかしてすーちゃんもこんな気持ちで、アパートでの暮らしを楽しんでいたのかな……?」
私はそのとき一瞬、ようやくすーちゃんみたいになれた気がした。

お金はあればいいけど、目の前にある幸せに気付けるように

学生時代に休み時間、友達と分けあった大袋のチョコレート。仕事の合間に先輩とひっそり食べた、コンビニのロールケーキ。高価ではないけれど、特段おいしく感じたことを思い出した。
お金があれば、人に何かプレゼントできるし、心の余裕が生まれる。将来何があるか分からないから、絶対にお金はあった方がいい。

けれど今は目の前の、小さな幸せを見つけられる人にまずなりたい。たとえば、何気ない日にお花を飾ったり、少しだけ遠くまでお散歩してみたり。自然に笑顔でいられたら、周りにも幸せをシェアできるんだろうなあ......と、そんな風にようやく身近なことに考えを巡らせているこの頃だ。

すーちゃん、等身大を見つめることの大切さ、日々の楽しみを発見できる尊さを教えてくれてありがとう。まだまだすーちゃんは遠い存在だけれど、私の憧れのひとりです。