遠い存在だった占いでの新鮮な体験。迷ったときは「期待」に賭けたい

「占い、行ってみない?」という知人からの誘いに、つかの間返事をためらった。タロットや水晶を用いた、いわゆる「スピリチュアル」なアレコレを思い浮かべる。
生まれて26年間、占いに行ったことがなかった。
「なんだか怪しそう……」
LINEを開き、「今回は遠慮し」まで文字を打った。しかし、いま一度深呼吸して、知人から送られてきたお店のURLを開いてみる。
一度さらりと見たページ。今度はじっくり眺め、読み飛ばしていた「YouTube更新中」のキャッチコピーを見つけ、クリックした。
最新動画がずらり。「今日の運勢を見てみましょう!」といったテレビや雑誌で見るような、ポップなテーマで投稿されていた。ひとつ動画を見ると、登場したのは明るい雰囲気の占い師さん。
「あれ?なんだかイメージと違う……??」
再びLINEを開き、先程打った六文字を消し、「行きたいです」と返信した。
もうすぐ27歳、新たな挑戦がしたかった。約束の日までの1週間、不安と期待の感情を行き来しながら、期待する気持ちに賭けてみることにした。
迎えた当日。占いのお店は、都心のど真ん中・人の溢れる駅から少し離れたビルに入っていた。
どきどきしながら扉を開く。予想外にも、小さな美容サロンのようなシンプルな空間が広がっていた。
照明を少し落とした、ややディープな雰囲気が演出されている。3つほどのテーブルはカーテンで区切られ、すでに来客のあった2つのブースでは、占い師さんと相談者の方が談笑していた。
お店によってさまざま雰囲気があるようだが(占いに詳しい知人談)、こちらのお店はカジュアルに相談ができる様子。占い初心者の私はひとまず胸を撫で下ろした。しかし、慣れない空気に鼓動が早まる。
数分後、ついに私の順番がやってきた。
「占い、初めてなんです……!よろしくお願いします!」
いつもより高めの声が口を出た。
「わあ!初めてなんですね、緊張しますよね。今日は来てくださって、ありがとうございます!」
対面したのはおそらく少し年上の、女性の占い師さん。
「どうぞお掛けください」
薄暗いこぢんまりとしたスペースで、背筋を伸ばす私。いよいよ鑑定が始まった。
約20分の間に、私は知らない言葉をたくさん浴びた。
自分の持つ星、素の自分、運勢の良いアイテム……。
説明を受ける度に、ひとつずつにあいづちと質問をしてみた。例えば、「しずかさん(私の名前)はこういった性格で、けれど、こういった側面もあります。なぜなら、〜の星を持つので」と言葉を受けた際には、「確かに自分のこの行動は、今言われた性格に通ずるかもしれないです」といったように。
また、「将来は〜な風になりそう」と具体的なフレーズをもらった際には、「それ、興味あるかもしれないです!やってみたい……!!」とつい、前のめりに返答した場面もあった。
占い師さんから性格などの分析・診断を受け、自分で行動・習慣を振り返り、照らし合わせてみる。目に見えないものを言語化し、わかりやすいカタチに整え、理解を深める感覚が不思議だった。
開始から20分が刻まれる頃、「こんな風にしたら明るい気持ちになれますよ!」と励ましを受け、「本当ですか!うれしい」という率直な言葉が口から出た。
私の背中はまあるく、鼓動はゆったりと響いていた。
お店を出たあと知人に、「なんだか楽しそうだったね」と笑みを向けられた。
「誘ってくれてありがとうございました」
すっきりとした心持ちでお礼を伝えていた。
帰り道、最寄り駅前のビジョンに「今週の運勢」と題した星占いが映し出されていた。立ち止まり見つめていると、同じように画面の前で止まる人がいた。そういえば先日、「最近、タロット練習中なんだ」と話していた友人、いたなあ......。と急に思い出した。占いって人気なのだなあ。たくさんの人を惹きつけている理由をぼんやりと考えてみた。
あの日の体験を通し、知らない誰かに悩みを受け止めてもらうことで気持ちが整理でき、ほんのり心が和らいだ。隠れていた自分の良い面も悪い面も浮かび、新鮮な時間だった。心が軽くなったのだった。
私はコーヒーが好きで、一日に数杯飲んでいる。近頃はハンドドリップに挑戦中で、うまく淹れられた日は、「なんだか良い日になりそう」と笑顔をかみしめたり。しかし、つい飲み過ぎた日は夜眠れなくなり、「今日はこの一杯まで」としょっちゅう葛藤したりもする。
占いを楽しんでいる方々にとってその存在は、もしかして私にとってのコーヒーに近いものなのかなと思った。生活の中に上手に取り入れ、日々の安らぎや楽しみが増えるのは合理的なのかもしれない、と考えを巡らせたのだった。
奥底に隠れていた探究心を呼び覚まし、新しい世界を発見した占い体験。
「どんな運勢なのだろう。いいことあるといいな」
目の前に広がる星占いを眺めながら、明日からの抱負を描いてみた。
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