あの子達が忘れられない。保育士を辞めて抱える心の傷は私の罪滅ぼし

私は、十一月に無職になりました。大好きだった保育士を離れる選択をしたのです。

何ヶ月もの間、色々なことを考えました。全ては、職場に復帰するために、私なりに自分と向き合ってきたつもりでした。しかし、復帰の時期が迫ってくるたびに、言いようのない不安と恐怖が襲い、休職の期間を延ばしていきました。

◎          ◎

月に一度、保育園に診断書を渡しに行くことが、辛くて仕方がなかった。子どもたちの声が聞こえるけれども、姿を見ることも抱きしめることも出来なかったからです。
一度でいいからと思い、そっと部屋を覗いた時、私の居場所はすでに無くなってしまったのだと、さらに落ち込んで帰ることもありました。

人のせいにすることは簡単でした。「私がこうなったのも、職場のせいだし、人間関係のせいだ。ただ、ずっと保育士を続けたかっただけなのに」と。
しかし、一度人のせいにすると、次は、自分を責める作業に移っていきます。まるで、社会から取り残された人間として、ただ立ち尽くすことしかできない状況が、何よりも辛かったんだと思います。
周りの友人や、職場の先生たちも心配してくれたり、連絡をくれたり、時には、時間を見つけて会ってくれる人もいました。けれども、優しさに触れるたびに、私自身は孤独の中に引きずり込まれていくような感覚になっていました。

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ある日のこと、私は彼と喧嘩をしました。彼は、優しさのつもりで「仕事を辞めてほしい」と言いました。しかし、私は辞める勇気も行く勇気もありませんでした。どっちつかずの状況と、復帰できない焦りがいっぺんに来てしまい、パンクしたのです。
優しさからの言葉は、突き放された言葉にしか捉えることはできませんでした。
その日、私は何時間も泣き続けました。
悲しくて、悲しくて、整理がつけられないほど悲しかったのです。
どうすればいいのかも分からなくなってしまい、ひたすら泣き続けました。
彼は、同じように悲しい顔をして黙って寄り添ってくれました。ひたすら、傷つけるような言葉を吐き捨てても、「大丈夫、大丈夫だよ」と背中をさすり、声をかけてくれていました。

本当は、随分前から分かっていたんです。もう、復帰することはできないと。
二人で何日も話し合い、辞める選択をしました。復帰を考えている理由を聞かれて、私は、生活のこと、お金のことを話しました。
しかし、本当は、子どもたちに会いたかった。ただ、それだけでした。
保育士としての私に、もう一度だけ戻りたかったんです。
辛いことばかりではなく、楽しいことが蘇る場所に、戻りたかったんです。

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けれども、最後まで叶うことはできませんでした。
診断書を出しに行ったとき、私は園長からこんなことを言われました。
「保育士は、どこでもできるよ。それに、違うところで働けば、そこの子どもたちが可愛く思えるから」と。
言っていることも分かってはいました。けれど、あの子たちの代わりはいないのです。卒園して会えなくなるのと、突然会えなくなるのは違う。別の園に行けば、もう二度と会うことは出来なくなると思います。あの保育園でしか関われない子たちだからこそ、私は、ずっと悩み続けていました。
あの子たちの代わりは、いないんです。自ら離れる選択をしましたが、いまだに心の整理はついていません。もしも、他に道があるのなら、戻ることを諦めたくなかった。
今はただ、こうするしか方法が見つからないのです。

この先も私は、保育園で過ごした日々を、大好きな子どもたちを忘れることはありません。
いっそのこと、忘れられたら、どれだけ楽になるだろう。
仕事が上手くいかなかっただけと思えれば、どれだけ心は軽くなるだろう。
嫌な過去を忘れたくても、ふとした瞬間に記憶が蘇り、泣いてしまう。

それが、私なりの罪滅ぼしなのかもしれません。

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