つい最近まで、私は堕落した生活を送っていました。
仕事をしていた時は、何もかもが目まぐるしく過ぎ去っていき、正直、自分のことなんて考えている暇なんてありませんでした。
私は、子どもを産んだことも子育てをしたこともありません。保育士といっても、限られた時間の中で、大切な命を守り、子どもたちの成長の手助けをする。
それが私たちの仕事でした。
親御さんが味わっている大変さに比べれば、忙しさも言い訳になってしまう。それ以上に、子どもたちの笑顔を見るだけで、「先生!大好き」と言ってくれるだけで、疲れなんてどこかへ消えてなくなってしまう。
そんな生活を送っていました。

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けれども状況は変わり、ある時から仕事に行かなくなりました。そこからの生活は、今までのサイクルとはまるで違って、遅くに起きて、何もせずにぼーっと過ごすことが増えていきました。
というよりも、何をしていいのかが分かりませんでした。そこには、多少なりとも罪悪感があって、休んではいけないと思う私がいたんです。
それと同時に忙しくしていた分、ゆったりとした時間の中は、まるで時が止まっているかのように、永遠に終わらないような気がして、怖くて仕方がありませんでした。

その頃からでしょうか、今まで以上に文章を書くようになったのは。
「私には、書かなければいけないことがあるから」と無理やり忙しくしていたのかもしれません。
仕事をしていた時は、何とか時間を割いて文章を書いていました。今の私には、文章を書くことしかやることがないんです。
そして、自分を守る道もそれしかありませんでした。
「ごめんね、ごめんね」と子どもたちの顔を思い浮かべ呟く私は、罪悪感でいっぱいでした。謝って許してもらえるなら、何度だって謝りたかったのです。

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けれど、その行動自体が偽善的なものだったかもしれません。結局、辛い思いから逃げたくて、直視したくなくて、文章を書くことで逃げ道を作っていたんです。しかし、文章を書くことは自分と向き合うことであり、思いを受け止める作業でもありました。
「ごめんね」と呟くことよりも「ありがとう」と言いたいと思うことが増えていきました。決して、私が悪いことをして辞めたわけではないし、大好きな仕事が出来なくなったことを、職場のせいにだってできる。

けれども、浮かんでしまうんです。助けてくれた人や声をかけてくれた人たちの顔が。
その時に言われた言葉の数々が。
だから私は、職場のせいにはしません。
自分のことを弱い人間だと責めることもやめました。
憎い人はいくらでもいます。
許せない人だっています。
けど、そこに文句を言い続けて前に進まず、立ち止まってばかりでは、結局、その人たちと何も変わらなくなってしまう。
だったら私は、そばにいてくれた人のために、行動をしたい。
助けてくれた人たちに恩返しをする道を選ぼうと思ったのです。

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しかし、そうやって考えられたのは本当につい最近のことでした。エッセイを書き始めてから、少しずつ感想を頂けるようになりました。
中には保育士をしていた人や、目指していた人もいました。会ったこともない私なんかのために、それぞれの言葉で励ましてくれました。
その時に「あっ、一人じゃないんだ。こんな風に見てくれる人がいる。支えてくれる人がいるんだ」と込み上げてくるものがありました。
そしてその中で一つ、印象的だった言葉があります。
「オリエンタル納言さんのエッセイは、私の帰る場所の一つです」という言葉。
ずっと後ろばかりを振り向いて、前を向いて歩くことが怖かった私が、書いている時だけは、包み隠さずに想いを伝えられる。だからここは「私が私でいられる場所なんだ」と思っていました。
けれども、私以外に誰かの帰る場所になれていることに嬉しくて涙が止まりませんでした。読んでくださる人たちに、少しでも勇気が与えられているのなら、私も、前を向いて歩き始めようと思えたんです。
誰かの勇気になれるような物書きを目指している私が、誰かの言葉に、救われている。
誰かの想いに触れて、前を向き始めている。
誰よりも勇気をもらっていたのは、私の方でした。

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またどこかで後ろを振り返ることがあるかもしれません。立ち止まって、歩くことを止めてしまうことがあるかもしれません。そんな時は、誰かがくれた言葉たちに会いに行こうと思います。「あなたは、決して一人じゃないよ。大丈夫、ゆっくりでいいんだ。焦らなくていいんだ」とエールを送ってくれた人たちの元へ。

誰かに勇気を与える物書きは、沢山いるかもしれない。けれども、不器用で弱虫だけど色んな人たちが支えてくれて、勇気を与えてくれる幸せ者は、私くらいだと思います。
今ある気持ちを忘れずに、言葉が繋いでくれた数々の勇気を大切にしながら、文章を書いていきたいと思います。