私は、今までに沢山のマッチングアプリを利用してきました。
一番初めにやった時は、まだ私が二十歳だった頃。
当時マッチングアプリは「出会い系」と呼ばれており、イメージも良くなく、友人にもやっていることを言えないような時代でした。だから誰にもバレないようにこっそりと、マッチングアプリをやっていました。その時やっていたのが、男女問わず出会えるアプリで、色々な人と出会いを広げていく、そんな趣旨のものだったと思います。

知らない人に出会えるワクワク感と、新たな恋や友情に繋がる出会いの両方に期待をしながら、毎日アプリを開いて通知を確認したり、メッセージを読み、返信するのが私の楽しみになっていました。

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そこで出会ったのが、一人の女性でした。アイコンにされていた顔は、絶妙に分からなくなっているもので、名前もネット用の名前にされていました。だから、彼女の本名も本当の顔も、この時は全く分かりませんでした。
彼女から友だち申請が来て、約半年間やり取りをすることになりました。
このアプリの中で女性とやり取りをしたのは、彼女だけでした。

彼女とやり取りを始めた頃、二人の仕事の話や、趣味の話、恋愛観など、少しずつお互いのことが分かるようなことを話していました。毎日繰り返されるやり取りは、いつしか私たちの日課になり、連絡をするのが当たり前になっていきました。

ある日彼女からLINEに移行したいと言われ、そこからはLINEで連絡をするようになりました。そこで私は、彼女自身の壮絶な生い立ちを聞かされることになるのです。

「あのね。実は私、親がいないの。施設で育ってきたから身寄りが誰もいないんだ。親の温もりも知らないし、兄弟だっていない。大人になんて甘えられることもなかったから、つい、歳上の人を好きになって不倫ばっかりしちゃうんだ」
突然の告白と、重たい内容に私はついていけずに、なんて言葉を返すべきか悩んでいました。すると「こんな話されても困るよね。でも、あなたなら何でも話せるんだ」と言われました。

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今でも、なぜ私にここまで心を開いてくれたのかは分かりませんが、彼女自身も話す相手が欲しくて、寂しくて、誰かに気持ちを打ち明けたかったのではないかと思います。しかし、まだ二十代前半の世間もあまり知らない私には、重すぎるテーマに返す言葉もなく、ひたすら聞くことしかできませんでした。

けれども聞いてもらえることが嬉しかったのか、そこからさらに関係は深いものになっていきます。というより彼女は、私に依存し始めていたのです。
私と誰かがやり取りをしていることを気にしたり、他の男性と連絡をしていることを聞くと、少しだけ辛く当たることが増えていきました。
いつしか、彼女の顔色をうかがうようになってしまった私は、出会った人の話をしなくなりました。それが正しい選択だとは思いませんが、そうするしかなかったのです。会ったこともない相手だけれど、過酷な環境を聞いて、お互いの話をしていくうちに、情のようなものが生まれてしまったのかもしれません。

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しかし、この関係は突然、終わりを迎えます。

「あのね私、あなたのことが大好きで大切だと思っている。会ったことはないし、電話とLINEだけだと思うかもしれないけれど、とても大切なの。だから、私なんかと一緒にいちゃダメだよ。これからは、もっとあなたらしく、自由に色々な人と出会ってね。沢山話を聞いてくれてありがとう。さようなら」
そう言葉を残して、いなくなってしまいました。

私が返信をしたLINEのメッセージが既読になることは、それ以降一度もありませんでした。
施設で育った話も不倫の話も本当かどうかは分かりません。ただ、やり取りをしていく中で、誰かに認めて欲しくて、自分を受け止めてほしいと思う気持ちは、痛いほど伝わっていました。
彼女自身も感情を抑えられなくなっていき、私と離れることを決意したのかもしれません。ただ、当時の気持ちも彼女の本当の姿も、今の私には知る術はなく、うっすらと残る記憶だけが、頭の片隅にあるのです。

もしも彼女と一度でもいいから直接会えていたら、もっと違った形で、友情を深められたのかもしれません。彼女が今何をしているのかは分かりませんが、せめて、今までの人生で辛かった記憶を塗り替えるくらい、幸せになっていることを信じています。