「【ご報告】すごいことになりました」
たくさんのモフモフしたぬいぐるみに囲まれ、戸惑うような顔を見せるユーチューバーさん。背景にはあの有名なキャラクター・リラックマが、手前にはウサギのようなぬいぐるみがいる。「ご報告」と題する、想像のつかない動画。再生してみることにした。

その報告とは。
ユーチューバーさんがプロデュースした絵本のキャラクター「くまうさ」が、キャラクターグッズ会社・サンエックスからアイテム化され、「アンバサダー(宣伝大使)に任命されました」という内容だった。
くまうさは、「くまみたいに体の大きなうさぎ」。大きなお顔に小さな瞳のコントラストが愛くるしい。腕で抱えられるほどの大きさのぬいぐるみは机にコロンと横たわり、ふんわり、モフモフしている。
動画内で、「かわいい!」とユーチューバーさんが連呼し、私も完全同意。とにかくかわいいのだ。けれど、単に「かわいい」だけでなく、どうやら内面に秘密を抱えているようだった。

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薄ピンク色のボディをしたくまうさ。胸には雲型のブローチのようなものが付いていて、それはモヤモヤした気持ちを表しているのだそう。公式サイトを見ると、「だれにでもある心のモヤモヤにそっと寄り添うキャラクターです」との紹介があった。
くまうさが登場する物語の中ではこんなシーンがある。くまうさは鏡に映る自分の姿を見て、
「うさぎなのにちいさくてかわいくもなく」
「おおきいだけでくまにもなれず」
「モヤモヤする」
と耳を手で引っ張って目を隠す。次第に周りに集まるのが、たくさんの「もやもや」。
悩みやコンプレックスを抱えるくまうさに寄り添うのが「ともぷぅ」という友達だ。
「気にしない、気にしない」
そんな言葉をかけると、すぅっともやもやが減っていった。

なんて深い話なのだろう。第一印象では、くまうさのキュートなルックスに惹かれた。けれど、ひとり静かに涙ぐむくまうさ、隣にいるともぷぅの存在など、キャラクターたちの気持ちの変化や動きに共感。より愛くるしく思えた。

ふと小さい頃に出会った「たれぱんだ」というキャラクターを思い出した。

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ペタッと床に寝そべるパンダのようなキャラクター。本屋さんでたれぱんだのシールブックを見つけ、母にねだって買ってもらったことがある。大きな瞳に垂れたお顔で、ただ上を見上げたり、浮き輪に挟まったり、好物の餅菓子「すあま」に寝そべったり。表情はほとんど変わらないキャラクター。ゆるふわした雰囲気に癒された。

のちに、たれぱんだも「かわいい」だけでないことがわかった。誕生した背景について、担当したデザイナーさんは入社してからデザインがボツになってばかりで疲れており、そんなときに浮かんだのがたれぱんだだったという。とあるインタビュー記事に、「何枚描いてもボツ。疲れ果て、もうダメだあ、と思ったとき、描いたパンダもぐったりし、地面にたれたようになっていた」とのお話が載っていた。

そんなバックグラウンドがあったんだ。
くまうさと同じ、キュートな見た目にまず惹かれた私。キャラクターが誕生した背景を知り、より尊い存在に思えた。

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ご報告動画の最後には、ユーチューバーさんの背丈くらいある大きなくまうさが登場。動画のサムネイル(写真)で戸惑うような表情をしていたのは、アンバサダー就任やキャラクター登場のサプライズに対し驚いた表情だったのかもしれない。もしくはくまうさの見えないモヤモヤを代わりに表現していたのだろうか。

「今年こそ、自分の機嫌は自分でとれるようになりたい」
そんな風に一年の目標を掲げていたのだけれど、どうにも機嫌を上手く取れない。私もくまうさと同じくモヤモヤが絶えず、内向きになってしまうことがしばしば。
例えば仕事から帰宅し、このやるせない気持ちを誰にも打ち明けられなく、涙が出る時。ベッドの上にくまうさやたれぱんだのぬいぐるみがいて、抱きしめることができたら。くまうさのモヤモヤが消えていったように、私のモヤモヤもすっと消え去るかもなあと思った。
くまうさに寄り添ってくれるともぷぅみたいに、キャラクターたちがその寄り添う存在になってくれるのかもしれない。

なんだか悩んでいた小さなことを忘れてしまえる気がした。

参照:
San-x Channel「くまうさ」
withnews「『たれぱんだ』変えた、サンエックスの価値観 すみっコ作者にも伝承」