2022年10月、私は診断書ではなく退職届をもらいに保育園に行きました。

約4ヶ月間、大好きな仕事から離れて、休職することを選びました。初めの1ヶ月間は、すぐにでも復帰を考えていました。体が治っていなくても、体調が悪くても戻りたいと思っていたからです。けれども、病状は一向に回復することはなく、2ヶ月、3ヶ月と伸びていきました。

復帰という言葉が重荷になりながらも、子どもたちに会えることだけを考えて、もう一度保育士として働いている姿を想像しながら過ごしていました。けれども、心のどこかで「もう、無理かもしれない」そう諦めていた私もいました。だから、ズルズル伸びていくだけの状況が、さらに心を重くしていきました。月に一度、診断書を出しに行く足取りは重く、向かうだけで時間が掛かってしまうほどでした。

何度も彼と話し合いを重ね、家族に相談しながら、私はどこかで「もう、辞めて良いんだよ」という言葉を待っていたのかもしれません。
けれども「君には、保育士が一番合っているよ。大丈夫、ゆっくり時間が解決して、いつか復帰できる日が来るから」とも言って欲しかった。自分では決められない優柔不断さに何度も迷い、考える、そんな生活を送っていました。

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4ヶ月目を迎えた10月、私の心は少しずつ辞める方向に傾き始めていました。それは彼が泣きながら、「仕事に戻って、君がまた壊れる姿を見たくない。辛いよ、大切な人がどんどん痩せて、変わってしまう姿を近くで見るのは。僕が助けたいと思っていても、できることには限りがある。何もできないことが悔しくて、辛いんだ。僕は、傷ついて帰ってくる君を見たくない。もう一度戻って、心を壊して泣きながら我慢する姿を見たくないんだ。嫌われてもいい、僕が嫌われて君が元気になるんだったら、いくらでも嫌われるよ」
そう言ったのです。

その日私たちは、冷たくなりつつある床に座り込み、声を出して泣きました。
「大っ嫌いだ!辛いよ、悲しいよ。子どもたちに、会いたいよ」
そう叫んで私は泣きました。彼は「嫌いでいい、嫌いでいいから自分の体を、心を大事にして」と泣きました。彼のためにも自分のためにも、これが正しい選択だと決断したのです。

そして診断書はもらわずに、辞めることを伝えにいきました。何度も引き止めようとする姿を、嬉しく思いながらも「すみません、このまま迷惑をかけ続けたくないんです」と伝え、退職届をもらいました。最後に「もう本当に戻る気はないの?」と聞かれましたが、「ないです」と答え、「そっか、意志は固いんだね」と声を震わせながら言われた時には、気持ちが揺らいでしまいそうになりました。

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しかし私は、決断を変更することはしませんでした。帰る時、色とりどりの帽子を被った子どもたちが、園庭で遊んでいました。
その中には、かつて担任をしていた子の姿もありました。

「これでもう、本当に最後のお別れになるんだ」そう思いながら、彼らに背をむけ、歩き出した時「みー先生!!」と私を呼ぶ声がしました。振り向くと、猛ダッシュで私めがけて走ってきたのです。
勢いが良すぎてよろけてしまいそうなくらいのスピードで、ぎゅっと抱きしめられた時、私は涙を流さないように堪えるのが必死でした。

「みー先生!どうしたの!?なんでいるの。どこ行くの?私こんなことができるようになったんだよ」
そうやって代わる代わる、話したいことを無我夢中で話す姿に、もう一度だけ保育士になれた気がしました。他の先生の視線が痛かったけれど、無視をして話を聞きました。その度に抱っこをしたり、ぎゅっと抱きしめたりしながら、彼らの温もりを感じていました。

前に見た時よりも大きくなった姿に、四ヶ月という期間の長さを痛感しました。そして帰り際「先生、そろそろ帰るね」と言うと、「もう帰っちゃうの?どこに帰るの?次は、いつくるの?また、会える?」と質問責めをされました。
子どもたちの中に、今でも私の存在が残っていることが本当に嬉しかった。そして、私にとっては永遠のさようならのつもりでも、彼らの中では「また会おうね」と声をかけてくれたことが、何より救われました。

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今まで沢山、保育士の話を書いてきました。女社会ならではの悩みや、職場環境の話など、正直ネガティブなことばかりを書いてきました。
ただ、それでもどうして保育士を続けたいと思ったか。
それは、やっぱり子どもが好きで、彼らの言葉に救われる瞬間があるからなのです。他の仕事では味わえない喜びや感動、そして共に成長し合える職業は、保育士ならではだと思います。

私が辞めるという選択をしたことに後悔は、ありません。
ただ、保育士という仕事を選んだことも、後悔はしてません。
彼らのおかげで先生になれたんです。
彼らのおかげで、大切なことを沢山知りました。
大人になったら忘れてしまいそうなことを、純粋な彼らと過ごすから、忘れられずにいられる。
それが保育士なんです。

この先、多くの保育士さんが彼らの笑顔を純粋に守り、喜び合える環境が増えていってほしいと思います。噂話や愚痴で結束なんかしないで、子どもたちとの嬉しかった話や成長を喜び合える、そんな職場環境が増えることを心から願っています。