別れられなかった23日。別れを告げられた26日。クリスマスの悪夢

クリスマス前の12月23日、「もう、あなたと一緒にいることが限界なの」と、当時付き合っていた彼に別れを告げた。
心の中で何度も繰り返し自問自答していたものに、けじめをつけるために。
そして、少しでも心に傷をつけないようにしたかったから。
だから私は、彼の1Kのアパートの狭いベッドの上で伝えたんだ。
けれども、彼は私の顔も見ることなく「いや、別れるなんてないよ。そんな心配しないでよ。俺たちが深い関係なのは分かっているでしょ?」そう言いながら携帯をいじり、少し面倒臭そうに答えた。
けれど、私は知っていた。
彼には別に好きな人がいて、私のことなんてもう好きではなかったことを。だから、恋人たちが幸せな顔をして見つめ合うクリスマスイブの前の日に別れることを選びたかった。
「もう、いっそのこと好きな人の所へ行きなよ」そんな思いも込めていた。けれども、彼は全く違う答えを返していつものように私にキスをする。そのままベッドに吸い込まれるようにしてぎゅっと抱きしめてきたから、愛情なんてないくせにと思いながらも、私の体に伝わる彼の温もりに、つい、気持ちは揺らいでしまった。
強い意志があればこれ以上傷つくこともなかったのに。
その後、クリスマスイブとクリスマスは彼が仕事だと言うから、お祝いを26日にしようと二人で決めた。
好きになったあの時のような関係に戻れるように、私もどこかで期待をしていたのだろう。けれど、彼は仕事だと嘘をついて、好きな人と幸せな時間を過ごしていたんだ。
何故、そんなことが分かったか。
それは、クリスマスが過ぎて12月26日の二人で会う日に、彼から別れてほしいと言われたからだ。
両手に抱えた彼へのプレゼントを握りしめたまま、話を聞く手は震えて、鈍器で頭を殴られたような鈍さが走る、そんな気分だった。
私に淡々と理由を説明していく姿に、愛情はまるでなかった。きっと、クリスマスの日に告白をしたのかもしれない。だから、私の存在が邪魔になったのだ。
23日に別れなかったのは、付き合える確証が持てなかったから。
それ以外の何者でもなかった。彼に別れを告げた日に、受け入れてくれたらどれだけ楽だっただろう。
その時に「好きな人がいる」と言ってくれたら、こんなに傷付かずに済んだのに。
夜遅くに伝えられた言葉に、私は何度も「なんであの時に言ってくれなかったの……。どうして、今になってそんなことを言うの」と迫ってしまった。
終電もない、帰る手段もない私は、この地獄の空気の中で彼と一晩過ごすしか残されていなかった。別れを告げられた瞬間から彼は、私に指一本触れてこようとはしないで、話もかけてこないで、背を向けながら仕事の準備を始めた。
シングルベッドしかないから、一緒に寝るしかなくても、お互い背を向けてひたすら言葉を発しない夜を過ごした。静かな部屋には、私の啜り泣く音だけが響いて、何度も我慢していたけれど、堪えることができなかった。
どうして、23日に意志を強く持たなかったのか。
そこに、私のいい加減さと優柔不断な性格が出てしまった。
そして次の日、彼は私からのプレゼントだけをもらい、仕事に出かけてしまった。残された私は、渡されていた合鍵で家の鍵を閉めた。後日、鍵だけ返しに行った時、私があげたプレゼントは袋から出されないまま、床に転がっていた。
まるで彼の心を表すように。
クリスマスの時期になると、ふと思い出してしまう。あの時の惨めな私が、悲しい記憶が、今でも頭の片隅に残っている。静かに鳴るベルの音が、あの時の虚しさを表現しているように思えてしまうんだ。
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