6回目のデート。待ちに待った抱擁は「別れ」のハグだった

キラキラひかるネオン街を抜けると、ツリーに見立てられた木々たちに電飾が施されて立っている。そんな素敵な雰囲気が、過去の私を一気に惨めにさせていく。
あの日のことを思い出すたびに、胸がキュッとなってしまうからだ。
隣を歩いている男は、マッチングアプリで出会った男だ。そして、過去に類を見ないほどのイケメンでもある。
そんな彼と並んで歩いている姿を見て、きっと他の人はカップルだと思うかもしれない。けれど、私たちは付き合ってもいなければ、この先発展することもない関係なんだ。
遡ること数時間前、私たちは少し遅めのランチを食べていた。
今回で会うのは六回目となる。お互いに好意を抱いていたのは、会話の流れで感じていたし、もしかしたら付き合えるかもしれないと思っていた。
毎日やり取りを交わして、時間があるときは電話もしていた。その度に甘い空気が二人を包みながら、この先の未来を想像するだけで、胸がキュンとなってしまう。そしてクリスマス前にデートに誘われた私は、確信していた。
「今日できっと、付き合うことになるんだ」って。
そんなことを考え、今私はランチをしながらたわいもない会話をしている。服装も普段よりも気合を入れて、自分史上とびきり可愛い服を着ているし、メイクだって入念にスキンケアをしていたから、ツヤもいい。
私の心は、すでに準備が整っている。彼の言葉で、もしくは私がきっかけで、恋人になるんだと本気で思っていた。
ランチだってもちろん口の周りが汚れなくて、匂いもキツくないパスタを食べている。時折彼が、私の手をキュッと握り目を見つめて微笑んでくる。そんな姿にまたもや胸を熱くさせながら、今か今かと待っていた。
ランチを済ませた頃には少しずつ外は暗くなり、電飾の灯りがキラキラと明るく輝いていた。あまりの寒さに手を口の息で温めていると、そっと私の手を掴んで彼のポケットへと入れてくれた。この数時間で何度トキメけばいいのだろうかと思うくらい、スマートでカッコよかった。
私たちは、ランチを食べた後にどうするかを考えていなかったから、電飾を見ながら歩いていると、大きなツリーが目の前に現れて彼は少し立ち止まり、「すごく綺麗だね。もうクリスマスか。なんか嬉しいな、こうやって一緒に見れて」と言った。
「本当だね、私も一緒に過ごせて嬉しいよ」
そう言うと、私たちは見つめ合い、少し照れながらお互いの手を握った。そして、またあてもなく歩き始める。
特に言葉を交わすわけではないけれど、一緒にいるだけで幸せを感じる、そんな気持ちになっていた。
しかし、これは幸せな二人の恋物語ではなく、悲しい結末を迎える悲劇のストーリーなのだ。
お互いに次の日が仕事だったから、長くはいられず、歩いたり店の中に入ったりしているうちに時間が来てしまい、駅に向かい始めていた。心の中で別れが寂しくて、もっと一緒にいたいと思っていた。
駅の改札口で彼がいきなり私を抱きしめた。沢山の人がいる中で恥ずかしさと嬉しさと驚きで、完全に戸惑い混乱していた。
ただ心の中では「よっしゃー!キター!」と叫んでしまうほど嬉しかった。
しかし、彼から言われたのは、衝撃の言葉だった。
「君のことは好きなんだ。でも、付き合いたいかって言われたら分からない。好きだけど、恋人にしたいくらい好きなのか、友だちとして好きなのか分からないんだ。だから、今日で会うのは最後にしよう。これはお別れのハグだと思って」と。
私は、訳もわからず「えっ!?どういうこと?」と聞き返したが、「今言ったことが全てだよ」と言われ、最後には「僕もう帰らないと。今までありがとう」そう言って人混みの中へ消えてしまった。
突然のことに呆然と立ち尽くす私の携帯が鳴り、そこには「今までありがとう。中途半端なことはしたくないから、わがまま言ってごめんね。幸せになってね」そう書かれていた。
返信したが、それ以降既読がつくことはなかった。
もうずいぶん昔の話だけれど、クリスマスになるとつい思い出してしまう。
私のとても苦い記憶だ。
今考えれば、彼は私のことを好きだったわけではなく、寂しさを埋める誰かが欲しかっただけなんだと思う。そして、そんなことにも気づかずに恋心を抱いてしまった当時の私に同情しながら、今年もツリーに見立てられた電飾だらけの木々たちを見るのだ。
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