扉を開けたら映画のような世界が。素敵な出会いを求めてカフェに行く

カフェが好きだ。
とても好き。
たとえば、「どのくらい好き?」と聞かれ、幼少期によくやっていたみたいに、腕を広げて表そうとすると、それでは表現できない。腕がちぎれてしまいそうになるから。
......というと、何だか重たい愛みたい。けれど、カフェが好きで、お気に入りがある方ならきっとうなずいてくれるはず(そうだったらうれしい)。
知らない土地に行った際には、どこかしらに立ち寄ってしまう。
過去には嫌な経験をしたことがあって、味がしないほど苦い思い出もあった。しかし、カフェを訪れるのをやめないのは、ある素敵な場所との出会いがあったから。
テーブルはキャリーケース、天井を見上げると気球のオブジェ、壁には収まりきらない世界の洋書が広がっている、不思議なところだった。
今から数年前。古びたビルの上階に隠れ、壊れそうなエレベーターに乗った時には、心臓が飛び出そうだった。友人といたのでなんとか耐えたが、ひとりだったら引き返していたかもしれない。
扉を開けて驚いた。キラキラとした洋風オブジェが至るところに飾られ、英国を代表するキャラクター「くまのパディントン」、その隣国・ベルギーより「タンタン」のぬいぐるみたちが迎えてくれた。まるで映画の世界!
私たちは顔を見合わせ、「すごいね」とこっそりはしゃいだ。
メニューにはアンティーク調のカバーが付けられていた。外国語だったら読めないかも……と、ドキドキ。中身はちゃんと日本語だった(外国語の表記もあった)。
スイーツもフードもドリンクもなんでもあって、頼んだケーキとコーヒーは絶品。なんて素敵な場所なのだろう!
抱いていた怖い印象はすぐに翻った。
すっかり気に入ってしまい、私はその後、お店に何度かひとり足を運んだ。
街がピンク色に染まった春の日のこと。お気に入りのケーキを頼んだ。いつもと同じものなのに、その日は桜柄の和の器にのって登場。花びら柄に粉砂糖がまぶされていた。
メニューにそんな説明書きはなかった。何でも事前に知ることができるこの頃、その場の出会いがうれしかった。
こんな風に、心が鮮やかになるカフェに巡り会えたけれど。過去にはもやもやした出会いもあった。
コーヒーが有名な、とあるカフェに立ち寄ったときのこと。私はあまりコーヒーに詳しくなく、メニューを見て、種類の多さに頭が追いつかなかった。
「初心者にはどのコーヒーがおすすめでしょうか……」
思い切って質問したところ、「えっ」と苦笑いされ、「好きなものを選べばいいのでは」と半笑いされてしまった。
胸がキュッとなった。
続きが聞けなくて、適当にアイスコーヒーか何かを指さして、注文した。
淹れたてのコーヒーは透き通る色をしていて、今風の、おしゃれなプラスチックのテイクアウト容器に注いでくれた。けれど、味がしなかった。
そのお店はコーヒー好きの方が多く訪れていて、来る人はそれなりに詳しいのだ。店員さんは普段聞くことのない質問に驚いたのかもしれなかった。
私は寂れたビルに隠れたあの小さなカフェを思い出し、アンティークのテーブルや四季を感じた日が恋しくなった。
人によって合う、合わないはある。好きの基準は異なるし、お店側が求める客層もそれぞれあるはずだ。
「嫌な経験をしたくないなら、新しい場所に行くのをやめればいいのでは?」
そう思う方がいるかもしれない。
正論である。
けれど、私は知らない土地に行くと、ついどこかしらカフェに立ち寄ってしまう。その土地の香りがするし、素敵な出会いがあるとほくほくした気持ちになれるから。
ちょっとした店員さんとの会話、居心地の良いインテリア、こだまするひそやかな話し声。ひとりで寂しい気持ちでいるときも、その小さな世界に足を踏み入れると、温もりを感じ、ふんわりした光を心に灯してくれる。
だから私は今日もカフェを探し、訪れ、癒されている。
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