28歳、体に限界を感じています!

歩くたびにパキっと鳴る足、常に首は痛くて腰も痛い。
何かをするたびに「よいしょ」と掛け声と共に立ち上がる姿に、かなり年齢を感じています。気がつけば肩をトントン叩いて、腰を回している。もう滅多に走らなくなってしまったし、運動もここ最近は全くしていません。
運動不足が如実に表れているんです。少し前まで栄養失調と言われていたから、体もかなり痩せてガリガリでした。顔も土色をしていたし、運動どころではなかった。
けれども少しずつ体調も回復して、元の体重に戻りつつあります。気がつけば痩せ細っていた体は、少しだけぽっちゃりしてきたような気がします。

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そこらかしこにガタを感じ始めている今、私には猛烈に欲しいものがありました。
それが「マッサージチェア」なのです。
全身を揉みほぐしてくれる椅子は、体のありとあらゆる部分を癒してくれる。自分の手では難しいところも、マッサージチェアにさえ座れば、解決される。ここまで欲しくてたまらなかったものは、なかったかもしれません。もうそれは、喉から手が出るほど欲しいのです。
ただここで問題が発生してしまいます。マッサージチェアともなると、高価なものだから簡単に買うことはできない。ましてや二人で暮らす分にはちょうどいいけれど、置く場所もない。

仕方なくYouTubeにアップされた『一人でもできるマッサージ』なるものを調べて試してみました。しかし、やっているうちに自分の手が疲れて続かないんです。自分自身に負担なくリフレッシュしたいのに、自力では限界がある。

YouTubeを観ながら悩んでいた私に「そこまで痛いなら、一緒にマッサージに行ってみようよ」という夫からの素晴らしい提案が。
「二人でデートがてらご飯を食べて、マッサージをしてもらおう!」
そう言われ、頭の中はマッサージでいっぱいでした。

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デート当日、マッサージ屋さんを調べてみるも全て満員か、遅い時間しか空いていないという結果になってしまい、「もっと、事前に予約しておくべきだった」と後悔しても仕切れない結果に。
受けられないと聞いた途端に、さらに体が重くなったみたいに動けなくなってしまいました。もう、それはそれはショックで、言葉にできないほどうなだれてしまう始末。
そんな時に一枚のポスターと黒い椅子が目に入ってきたのです。「あなたも試してみませんか?新感覚のマッサージチェアーを!10分200円で体験できます」と書かれていたのです。
「ねえ!これだ!これしかない。マッサージチェアでもいいからやりたい」という私の強い熱意に負けて、夫も「そこまでいうならやろうか」と財布を取り出すと、なんと小銭がない……。私はもうマッサージをすることしか頭がなかったので、急いでゲームセンターまで走って両替をしに行きました。
体が動かないことなんて忘れてしまうほど俊敏に動く姿に、夫はとても驚いていました。後ろから「そこまでやりたかったんだね……」と聞こえるけれど、気にしない。そんな思いで走り抜けていきました。
ジャラジャラと鳴る小銭たちを財布の中へ放り込んで、マッサージチェアの場所まで戻ってきました。緊張しながら椅子に座り、丁寧に200円を入れて身を預けていきます。
今まで感じたことのない、心地よさと気持ち良さに包まれていき、10分という時間は一瞬で終わってしまいました。気がつけば2人揃って200円を入れて、第二ラウンドをスタートさせていました。

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人生で初めてでした。ショッピングモールでマッサージチェアを体験したのは。結局その日、計3回の体験を行いました。「なんか軽くなったよね?やっぱりすごいね」なんてありきたりな言葉を並べながら、私は魅力的な椅子を褒め続けました。

マッサージを終えて、すぐ近くにある自販機でホットココアを買いました。熱すぎて猫背になりながら夫と2人でゆっくりココアを飲んでいく。味は正直薄すぎて分からなかったけれど、こんなデートもたまにはいいかなと思いながら、時間をかけて飲み干しました。

ずっと欲しかったマッサージチェアでしたが、デートでやる分にはそこまでお金もかからない。何より低予算デートではあるけれど、慎ましい中に幸せが転がっているんだなと改めて感じました。熱々のお湯みたいなココアも、200円のマッサージも。
今まで付き合ってきた人たちとは、お洒落なところへ行って、カフェでランチをして、自分も偽って過ごす、それが常でした。けれど、夫とはお金はあまりかけられなくても、2人で楽しむことに価値があることに何度も気付かされてきました。
2人揃って「あぁ~、気持ちいいね」と200円で言い合える関係を、私は続けていきたいと思います。いつか本当のマッサージを受けられる時まで、200円マッサージチェアデートは続くのでした。