一人の夜に思い出す。冷たい足をくっつけあい、家族一緒に寝た布団

静かに二階へと上がり、そっと布団の中へと足を放り投げる。ヒヤッと冷たい布が、私の足を縮こませて、冬の訪れを感じさせた。
あと何回、一人きりの夜を過ごすんだろう。そう考えながら、体温で温められていくのをジッと待つしかなかった。
シングルベッドに体を預けて、くるくる回る星の飾りを見つめる。機械音と、壁の音がパキッと鳴るたびに、どうしてこんなにも心細くなるんだろう。
そんなことしか考えられなかった。
一人で寝るようになってから27歳で家を出るまでずっと、そんなことを考えて眠りについていたから。
小さい頃は、家族で一緒に寝るのが当たり前だった。母が勝手に作った昔話を聞きながら、冷たい足をくっつけて「冷たいからやめて!」と言われながら、二人でクスクス笑う時間が好きだった。弟は早々に寝て、後から父がやってきて、気がつけば四人で寝ている。「独りぼっちじゃないんだ」と思える時間が何より幸せだった。
けれど五年生になった頃に一人部屋を与えられて、木で出来たベッドに一人で眠るようになってから、私は冬の夜が苦手だ。子どもから急激に大人にさせられていく、そこに不安と寂しさがいつもあって私を一人にさせたんだ。いつまでも一緒に寝たくて、枕を抱えながら「今日は、一緒に寝る」と言った事もあった。
大人になってからは、家族で寝ることはないし、一人で寝ることの方が都合がいい。好きなことに時間を使えるし、何時間だって携帯を見ながら過ごすことが当たり前になってしまった。足を縮めながら一人で入る布団ほど、寂しくて虚しいものはないから、冷たさを感じないように、逃げ道として携帯を頼りにしていたんだ。
隣に誰かいたらいいのにと思ってしまうのは、きっと私が寂しい人間だったから。
寝るときにおやすみと優しく声をかけてくれる人が欲しいのは、触れられる愛情を感じたいからだった。
だからついつい、冬の夜はいつもよりも長めに携帯を見てしまう。
知らないうちに深い眠りに堕ちたくて、独りになる時間を極力減らしたくて。
今でもふと思い出してしまう。
家族で寝ていた頃のことを。寝る前に沢山の話をしたことも。
人一倍寂しがりやで孤独を恐れた少女は、いつまでも過去の記憶を引きずりながら、未だに音楽を掛け流しでないと、眠ることができないんだ。少しだけ明るくした部屋の中で、小さい頃から聴き慣れた音を安心材料にしているのかもしれない。
大人になったからこそ、人肌が恋しい時がある。大人だからこそ、誰かの温もりを感じながら眠りにつきたい時がある。大人だからこそ、一人になりたくない時があるんだ。冬の澄んだ空気の日は、特に寂しさを感じてしまう。
28歳になった私が、家族と一緒に同じ部屋で同じベッドで寝ることはもうない。眠るまでのおしゃべりも、足をくっつけて笑いながら眠りにつくことも、もうないんだ。そして、今は離れて暮らしているから、余計にそんな機会もない。
だからこそ、過去に戻って一緒に眠りたいと思うことがあるのかもしれない。もう出来ないことだからこそ、余計に戻りたいと考えてしまうのかもしれない。
大人になっていいことは沢山あった。
縛られる事もなく、自由に生きる選択を自分でできる。
誰になんと言われようと、好きなように生きることが出来る。
ただ、自由と引き換えに幼い私が感じた愛情みたいなものを、肌で感じることは出来なくなってしまった。
もしも、過去に戻ることが出来るのなら、もう一度だけ家族揃って一緒に寝たいんだ。
冷たい布団が、じんわり暖かくなることを確かめるように。
母の背中にくっつきながら、眠ったあの頃のように。
そんなことを考えながら、私は今日も、冷たい布団の中へと入っていくのだ。
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