肉まんの味は、格別だった。見た目を武器に友達を作ろうと決意した冬

中学一年生の冬、私は決意しました。自分の容姿を変えて、友だちを作ろうと。見た目でいじめられてきたから、あえて見た目を武器にしようと。そうすれば、いつか誰かが声を掛けてくれるはずだって。
コンビニで売られている肉まんを初めて食べた時、あまりの美味しさに言葉が出ませんでした。過去にも何度か食べたことはあったけれど、なんだかその時に食べた肉まんの味は、格別だったのです。

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それと同時に「これならいけるかもしれない」そう思いました。
私は、母にもらったお小遣いのほとんどを肉まん、ケーキ、アイス、ポテトチップスに変えました。明らかに不健康そうなものばかりを食べて、毎日過ごしました。徐々に見た目は変化していき、あっという間に中学二年生に上がる頃には、68キロにもなっていたのです。

明らかに太った体型を、周りは面白おかしくいじり始めました。すると、一人またひとりと人が集まってきて、人生で初めて「友だち」と呼べるような存在が出来たのです。数人の女子たちに囲まれて、私は毎日自分をいかに滑稽で面白い人間かをアピールしました。
誰かが嫌だと言ったことを進んでやりました。そうすれば「ありがとう」と言って頼りにされることが、わかっていたからです。どれだけ嫌なことでも自ら進んで行うことに、迷いはありませんでした。
もう、一人ぼっちになりたくない。私だって友だちと呼べる人が出来たから、その人たちに好かれるように努力しなくちゃと……。それから、ますます暴飲暴食の日々は続いていきました。

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食べて飲んで、また食べて。夕飯もしっかりおかわりをしながら私はブクブクと太っていきました。
周りは言うんです。「お前って本当にデブだよな。女捨ててるよ」なんて。
それが嬉しかったんです。一緒の仲間に入れてもらえることが、友だちとして認識されていることが。中学二年生の一年は、私にとって今でも幸せな記憶として残っています。
初めて同級生に必要とされた時期だったから。どんな方法だったとしても、輪の中に入れたことが私には一番の幸せだったのです。

ただ、冬になったあたりから少しずつ周りの様子は変わっていきました。今まで私に話しかけていた友だちが、違う人たちと仲良くし始めました。私がどれだけ声を掛けても、何かをしても誰も振り向こうとしなくなりました。それから少しずつ人が離れていき、私が声をかけても振り向く人は誰もいなくなりました。
小さな噂話に尾鰭がついてしまったせいで。グループの一人が好きだった人を、私が取ったという疑いをかけられたせいで。その噂はあたかも真実として語られていき、とうとう私は裏切り者のレッテルを貼られたまま、かつての友だちは去っていきました。
私が言うのも苦しいけれど、当時の見た目の私を好きになる人なんているはずがないんです。ましてや、恋ができるほどの身分でもなかった。太って醜いピエロ役の私が、どうして恋路の邪魔ができると思ったのか。今でも疑問で仕方がありません。

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ただ、彼女たちにとって私という存在は、ただの使い捨てカイロのようなものだったんです。
暖かいうちは大切にポケットの中に入れられて、時には手の中で温められるのに、冷めた途端にただのゴミとして捨てられていく。だから私も、役目を終えた途端にゴミとして捨てられました。
本当の声も聞いてもらえないまま。
真実を伝える隙も与えられないまま、私は捨てられたのです。

冬になり、コンビニで肉まんが売られ始めると思い出すんです。この苦く切ない過去を。
きっと当時の私にも、落ち度はあったかもしれない。ただ、友だちだった時間が楽しかったからこそ、孤独になった時が辛かった。いっそ一人でいた方がマシだったと、何度思ったことか。
恋なんかよりも大切なことがありました。誰かを好きになって恋人になることなんかより、ずっと価値のあるものがありました。私が憧れ続けていた友だちという存在が、当時の私には、どれだけ大切でかけがえのないものだったか。それをかつての友は、知るよしもないでしょう。
多感な時期だからこそ、見た目を気にし始めて周りを意識し始める。それでも、自分の容姿を変えてまで欲しかったものを、私はたった一年で失いました。
あの頃の一年は、いろんな意味で忘れられないものなのです。

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