特集:寒かった「あの日」に

後輩の部屋で、恋人への想いを改めて確認する展開になった冬の夜

寒かった「あの日」に

寒かった「あの日」に

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冬は良くない。そう思ったのは大学2年の冬。私が大学のサークル運営をしていて、ちょうどコロナで落ち込んでいた時期である。

私が大学2年の冬はちょうどコロナが全国的にも世界的にも流行って、全面的な規制と外出や営業規制がかかっていた時期だ。
大学生だった私からしたら飲みにも行けない、遊びにも行けない上にサークル活動もできない。その時に所属していたのはYOSAKOIソーランサークルだったので、毎年踊っていた大会やお祭りも全て中止。世の中は暗いニュースばかりで、家から出てもお店も閉まっていて楽しくない。

未曾有の事態の中で唯一の救いだったのは彼氏がいたことと、周りの友達はみんな一人暮らしで、お店が開いてなくても比較的容易に会ったり飲んだりできたことだ。
もちろん以前ほど宅飲みの機会は減ったし、人数も減らして同じメンツに絞って感染拡大予防はしていた。とは言ってもほとんど飲み会もなく、彼氏と会って家でダラダラする機会の方が増えて幸せだった。

◎          ◎

しかし大変だったのはサークルの存続だった。
対面のお祭りやイベントに命をかけるサークルだったので、端から中止が続くとメンバーの士気も下がっていった。続けるモチベーションがないと言って辞める後輩も中にはいて、それを止めることも楽しい活動を保証することももちろんできなかった。運営をしている身であるにもかかわらず、みんなが楽しめる活動ができないのが苦しかった。

そんな世の中だったとしても、みんなと楽しく何かしたい思いを運営メンバーは強く持っており、毎日コロナの状況と面白いコンテンツはないかと考え続けた。

しかし学生のサークル運営の大変なところは、時間がみんな合わないことだ。昼間は勉強、夜はバイトなので、結局サークル会議は深夜0時スタート。そんな日々を送っていると少なからず病むメンバーもいて、私も正直萎えていた。

それでも私には楽しみがあった。それは仲良しの後輩と会議後に散歩をすることだった。毎日あった良いこと嫌なことをダラダラ話しながら散歩し、時にはそのまま朝まで散歩したりした。

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彼は後輩だったけどすごく気さくに話してくれて、タメの友達の感覚だった。
あるとき、いつも通りサークルの会議後に散歩しようという流れになったが、その日は雪でとても寒かった。少し歩いたがもう外にいたら風邪をひきそうだし、疲れたから家で映画でも観るかという話になった。深夜に映画を観るなんて最高だと思い、彼の家でアマプラを漁っていた。
何の映画を観たのかは覚えていないが、部屋が寒く、こたつだけでは凍えていたのは覚えている。

毛布などはないかと聞くと掛け布団を持ってきてくれた。もちろん一人暮らしの家なので彼の使っているもので、他にかけるものはなく仕方なく2人で一緒にかけた。

今思い返せば危ない状況だったと思う。いくら友達感覚とはいえど、同じこたつに入ってぬくぬくして同じ毛布をかけるなんて……。少しドキドキしてしまっていた自分の態度も出ていたのかもしれない。しかもその時は少し怖い映画を観ていたので、気づいたら2人の距離はくっついていた。

冬はよくない。これを感じた瞬間はこの時だった。
相手が私のことを本気で好きだったのかは今でもわからない。だけどもし襲われるようなことがあっても逃げるのが難しい状況ではあったと思う。

◎          ◎

映画のエンドロールの時、「怖かったね」「それよりまじで寒いね」なんて話しながらくっついて、キスをしてしまった。その時私には彼氏がいたが、疎遠になりかけていたのでどーでもよかった。それよりも目の前の状況にドキドキして、このまましてもいいのか?なんて思った。

そして彼と私は一緒に横になり、優しい彼は私の上から問いかけてくれたのだ。
「僕のこと、好き?」
それは後輩であり友達のような関係を崩さないために、私のことを気遣った最高の言葉だったのだと思う。彼氏がいることも把握していて無理強いはできないからこそ出た言葉……。

「ごめん、わからない」
私は正直に答えてしまった。友達としては仲良くしたいし大好きなのだが、この状況でそんな回答は求められていない。それはわかっていたので正直に答えた。

「じゃあ、彼氏さんのことは好きなの?」
これを聞かれた時点で勘付けなかった私は少々鈍感だったのだと思うが、私はその時に浮かんだ素直な気持ちを答えてしまった。
「ごめん、好きかもしれない」
自分でもびっくりした。

◎          ◎

その時はサークルの会議で忙しく会えない日々が続き、正直このまま乗り換えても良いのではないかと思っていた。それでも少し冷静になり、ふと出てきた言葉がそれだった。自分で思っていた以上に彼氏のことを好きで信頼していた自分に気づき、少し気まずくなった。
それでも彼は優しくて、「そっか、仲いいもんね」と言い、そのまま流した。

好意があると勘違いされそうな状況ですら、私の恋人への気持ちを確認してくれた彼に感謝している。今でも仲は良いがお互いにパートナーはいるし、お互いの中でその日のことはなかったことになっているのか全く話題に出ない。

寒かったあの日に学んだこと。

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