加工した写真をマッチングアプリに公開する。容姿に固執していた私

人の第一印象は見た目で決まる。初めて会った人の性格なんて分からないから、目で分かるもので判断をするだろう。清潔感があるのか、お洒落なのか、自分のタイプなのか、身長、髪型、それは全て目で見て分かるもの。そこから少しずつ声を聞き、言葉を交わしながら人間関係は出来上がっていく。
マッチングアプリをしていた頃は、さらに外見至上主義だから、一番盛れた写真を探してトップ画面に収める。それを見た人たちは、写真に写し出されたものが全てだと思い込んで、「可愛いね、綺麗だね」とありきたりな褒め言葉を口にしながら、なんとか好意を抱いてもらおうとする。そうやって、何度も何度もアプリの中で擬似恋愛を楽しんで、上辺だけの信頼関係を築いていった。
ただ、ほとんどの人が写真に写る私だけを見ているせいで、どんどん理想は高くなってしまったのだろう。だから、直接会うと「なんか違う」と言われたり、「黙っていたら可愛いのに」と皮肉を交えて批判する人もいた。
現実に一番近い写真を使えば良いのに、どうしても一歩を踏み出すことが出来なかった。それは、私の中にあるコンプレックスと、今まで味わったことのない見た目への褒め言葉に味をしめてしまったから。
当時載せていた写真は、アイプチをしてカラコンをつけていた。王道と呼ばれるメイクをひたすら練習して、何度も撮り直した渾身の加工をほどこした写真を使っていた。
普段の私とはまるで正反対だから、褒められると罪悪感が湧くこともあるけれど、それでも嬉しかった。認められていることが、褒められていることが。
自分自身に価値を見出してくれているような気がして。
どこかの有名な人が「見た目じゃない、中身を磨くのよ」と語りかけている。
その言葉を言っている人は、とても美しい容姿をしていた。だから正直、その言葉に重みを感じることは出来なかった。嫉妬、劣等感、悲しみ、トラウマ、様々な負の感情をまとっている人間に、今更心を磨くほどの余裕なんて残されていなかったから。
せめて、画面の中だけでも可愛くいられるのなら。せめて、どんな場所でも良いから綺麗だと言われるなら、それだけでよかった。
そんな捻じ曲がった考え方は、随分長い間、心を支配していた。
何度思っただろうか。
「二重で目が大きければ、いじめられずに済んだのに」と。
どれだけ願っただろうか。
「誰でも良いから、こんな私でも可愛いと言ってほしい」と。
だから、マッチングアプリのような作られた世界に魅了されて、何年もの間抜け出せずにいたのかもしれない。
ずっと欲しかった言葉を、一瞬でも言ってくれる人がいる。それが無駄だと気づいたのは二十代半ばになってからだった。
やっぱり、外見は入れ物に過ぎないと気づいてしまった。どれだけ外見が整っていようが、誰にでも褒められる容姿になろうとしようが、結局は自分の本当の意思ではない。そこにどんどん溝ができてしまった。
格好つけることに疲れて、好きでもない服を着ることに嫌悪感を抱いた。「求められていたものは、こんなことだったのか」と思えば思うほど、虚しかった。相手が望む姿になればなるほど、どんどん要求は高くなっていく。「喜んでくれるなら」と従順にしているうちに、相手は私のことを見なくなった。
そして、刺激を求めて違う人のところへと去っていく。その繰り返しに、何の生産性もないことに気づいてしまったんだ。
これまでの人生を振り返ると、ほとんどの時間を容姿のことで悩み続けてきた。
ずっとずっと認められたくて、受け入れて欲しくて。
それだけのために、私自身の存在を自ら無視し続けていたんだ。
食べ物に好き嫌いがあるように、人にだって好き嫌いがある。価値観の違いがあるように、その人が見ている世界と自分の見えている世界も違う。ただ、学生という小さな世界の中では、批判的な言葉が全てだと錯覚してしまっていたんだろう。大人になって社会に出て、さらに沢山の人がいることを知った。
もちろん私の容姿を否定する人はいる。けれど、ごく稀に「あなたは素敵だよ」と言ってくれる人にも出会えた。
それが答えなんだと思う。どんな言葉を聞くか、誰の言葉を自分の中で大切にしていくかが。批判的な言葉は、どんなものよりも強く残ってしまうもの。それに縛られている時間は、本当に勿体無いんだ。
だから、ある日から私は容姿に固執することをやめた。たとえそれが、否定的な言葉であふれかえっていたとしても、ほんの一握りの人が言ってくれた言葉を、大切にしたいんだ。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。