だから、私は最低だった。

私は気になっている人と距離が縮まった。付き合えるかもしれなかった。なのに、
「連絡しないで欲しい。さようなら」
と自分から断ち切った。
ラインもフェイスブックも、繋がっていたものは全部切ってしまった。

◎          ◎

高校2年生の秋。
「これ、一緒にやらない?」
学校で仲の良かった友人が、一枚のチラシを見せてきた。
発展途上国の人が手がけた創作品が並ぶ、バザー出展のお知らせだった。手芸が好きだった私は興味深く、「詳しく聞きたい」と友人に尋ねた。

場所は私たちが通う女子校の系列に当たる男子校。来る秋の文化祭期間に、そのバザーが開かれるそうだった。
友人は途上国支援に関するプロジェクトに参加していたことがあって、今回、出展の手伝いをするという。準備に人手を探しているとのことだった。
男子校までは、私が通っている女子校からも、私の家からも少し離れていたから、参加を迷った。
「準備期間、お菓子とかもらえるかもしれないし。放課後の数回だけだからさ」
友人の言葉に惑わされ、私は、「じゃあ、参加してみようかな」と答えた。
学外活動はひとつもしてなかったので、「まあ、やってみよう」と軽い気持ちだった。

◎          ◎

始まりは雨模様だった。
場所は男子校の一室。バザーの準備には数人の男子生徒が参加予定で、初めて訪れた日、すでに全員が作業に没頭していた。友人には知り合いがいて、私は誰ひとり顔が分からなかった。明らかに私は浮いていた。
「買い出し行くんだけど、しずかも行こう」
そう友人から声をかけてもらい、私は「うん、行く」と頷いた。
催しで使う大きな紙や文具などが、手書きのリストに書いてあった。
「荷物重いから、誰かと一緒に行きなよ」
友人の知り合い・B君がそう言って、ぐるりと教室を見渡した。
B君は近くにいた男子に向かって、「A君、二人と一緒に行ってくれる?」と声をかけた。
私、友人、A君の三人で買い出しに行くことになった。

学校の近くの文具屋に向かった。A君とはあまり話さなかった。なんとなく気まずそうに私たちの先を歩いていた。
A君はその店に何度か行ったことがあったようで、「道、こっちだよ」と時々声をかけてくれた。購入したあとは「重いの持つから」と言って、親切に接してくれた。

私は人に頼るのが苦手だった。中学は共学だったけど、教室では男女で話すことがなかった。男子という存在に抵抗があった。
しかしA君といるときは緊張がなく、自然体でいられた。

それから準備期間、A君とときどき話した。あんまり話さない私に気を遣ってか、「ここまで作業、進めてみよう」など、話しかけてくれた。
少しずつ準備期間が楽しくなっていき、当日を迎えるのが待ち遠しかった。

◎          ◎

バザーにはたくさんの人が来て、盛況で迎えた。
あんなに準備に力を入れたのに、もう片付けに入る。料理もそうだし、テストもそうだ。準備には時間がかかるのに、終わるのは一瞬だ。

片付けの期間、私はA君に、
「いろいろと気を遣ってくれてありがとう」
と伝えた。このとき、私はA君のことが気になっていた。たぶん私は「好意がある」という気持ちが出ていたと思う。
それに気づいてか、A君は「今日空いてたら、ご飯行こうよ」と誘ってくれた。私は頷いて、二人で夕飯を食べた。

小さな町中華に入った。A君は意外とよく話すことに驚いた。好きなものやハマってるあれこれを話し、「うんうん」と私は聞いていた。人生で初めて異性と二人で食事をしていて、緊張で言葉が出なかった。
頑張って私も何か話して、静かに聞いてくれるのが嬉しかった。

ラインを交換して、バイバイ、と別れた。

◎          ◎

文化祭を終えてから数日が経ち、A君はまめに連絡をくれた。しかし、私はA君から来る連絡が負担に感じるようになった。
ものすごい数のメッセージが来るわけではないけれど、通知を見る度、見えない何かに追われている気持ちになって、すぐに返事ができなくなった。

ある日、「遊びに行きたい」と連絡が来たときに、「この人無理かもしれない」と、急にA君のことが怖くなった。
本当に申し訳ないくらい、自分の気持ちから色が失われていった。
私はしばらくして、「ごめん、連絡もうできない」と言って、その人との連絡手段を全て消してしまった。

バザーに誘ってくれた友人は、私とA君との関係を知っていたから、「どうしたの」と心配してくれた。
私は「何でもない」と答えた。何でもなくなかった。

私は分からなかった。ぜんぜん、分からないのだ。
私が相手に対する好意的な気持ちは、「本当の好き」ではないのだろうか。少し相手が気になるだけで、恋をしてないのに、「これは恋だ」と錯覚してしまうのだろうか?

あれから10年経つのに、未だ、恋愛がうまくできない。
恋をするのは好きだから、好きだけど。とても苦手だ。