大学卒業後、新卒で貿易会社に就職した。私の仕事は、請求書や注文を受ける仕事を担う事務職だった。そこで私は、まるでドラマの世界にあるようなパワハラを受けた。
私の教育係だったのは、20才ほど年の離れた先輩職員。朝の挨拶を私だけ無視されたり、電話の引き継ぎに返事をしなかったりということから始まった嫌がらせはだんだんとエスカレートし、無理難題を押しつけられるようになり、理不尽に怒られ、残業代を申請させてもらず、お弁当箱に虫を入れられた。
まともな精神ではいられなかったあの時、私の記憶力は今よりはるかに低下していたと思う。夜は眠れず、顔は痙攣し、時々呼吸が苦しくなった。
過酷な日々を1年半耐え抜いた私は、ボロボロになって会社を辞めた。会社の人たちに対する、復讐心だけが残った。

転職先で得られた幅広い経験、素晴らしい上司、やりがいのある仕事

あの時のことを思い出すと、今でも胸が痛む。今なら、あの異常な世界で身を守る術が分かるし、さっさと辞める判断材料を持っている。けれど、大学を卒業したばかりの私は、ただ自分を責め、惨めな思いを抱えたまま、ぐっと堪えることしかできなかった。自分に優しくしてあげられるのは、自分だけだったのに。
その後、すぐに転職をした私は、再び事務職として働き始めた。その時初めて、誰からも苛められずに働くことが出来た。のびのびと自分の意見が言え、間違えても執拗に怒鳴られることなど無く、人間としての尊厳を保たれたまま成長し、働けることの喜びを知った。小さな会社だったので、請求書の作成から給与計算まで、幅広い業務を勉強させて貰えた。そして、同じ会社で働く人たちは温かった。そこで数年間スキルを磨いた私は、大企業へ転職することができた。そこには、人間として素晴らしい上司がいて、やりがいのある仕事があった。お昼御飯を、誰かと笑いながら食べられる幸せがあった。そういったものの全てを噛み締めながら、今、働いている。

あの時、あの場所から、勇気を持って逃げ出して良かった。

新卒として働いていたあの時、私は絶望のどん底にいた。けれど今、会社に行って笑顔にならない日はない。あの時の経験があったからこそ、私は今この幸せを、心から噛み締めることができる。あの時私を傷つけた人たちを決して許すことなどできないけれど、いつか抱いていた復讐心は、気付けば溶けて無くなっている。何故なら、今、私が幸せだから。
あの時、あの場所から、勇気を持って逃げ出して良かった。自分の未来を諦めず、上だけを向いて歩いて良かった。あの時頑張って、歯を食いしばって立ち上がった経験は、間違いなく自分の自信になっている。
新卒で入社した会社を辞めることは、とても大きな決断だった。また就職できるのか、同じようにひどい目に合うんじゃないか、もう少し我慢していれば、いつか報われる日がくるんじゃないか。そんなことを考えると、踏み出す勇気が出なかった。
けれど、もしも同じように苦しむ人がいるのなら、言ってあげたいことがある。
「あなたが輝ける場所なんて、星の数ほどあるんだよ。あなたを悲しませる場所になんて、もういなくていいんだよ。」と。