【今回のエッセイ】 「こんなに音痴な人初めて見た」 わたしの歌を聴いたお客様は漏れなくそう仰った。音感も無ければリズム感も皆無で、もはや朗読だと言われていたし、ayuを歌って採点機能で78点だった際には「この機械壊れてるでしょ」と真顔でボーイに尋ねられた。
原曲クラッシャーと言われる「音痴」な私がマイクをはなさない理由
益子寺かおりさん(以下かおり):あ~ん!投稿者さんの気持ち、わっかるぅ~!実は私、学生時代に「音痴コンプレックス」を患っていて、人前で歌うのが怖かったんです。今こうしてベッド・インではドヤ顔で歌っているから、信じられないと思うけど……(笑)
もともと、おチビちゃんのころは純粋に歌うことがDAISUKI!で。テレビを見ながらまねっこして歌ったり、家のピアノで弾き語りしたり、松任谷由実さんに憧れて「シンガーソングライターになりたい」なんて密かに思っていたんですけど……。私が通っていた小学校に合唱団みたいなものがあって、その入団テストに落ちてしまったんです。落ちた理由は「歌のクオリティは申し分なかったけど、歌ってる時の表情が暗かった」と……。子供ながらに「いやいや!歌うスタイルなんて人それぞれでいいじゃないか!」って憤りを覚えて。暗い顔でも明るい顔でも、表現に定義なんてないよね?第三者から否定される筋合いないわ!って。大人への反骨精神が芽生えた、最初の出来事だったと思います(笑)
そんな矛盾と怒りを感じつつも、落選したこと自体がすごくショックで、それ以来「歌がうまくない」「音痴」というレッテルを貼られたように感じてしまって……。クラスで合唱する時なんかは、自分だけが半音ずれているような恐怖心もうまれるくらい、歌うことが怖くなっていた時期もありました。
でも、自分が好きで大切にしてきたものを、こんなことで辞めるのは絶対にイヤだったので、一人でお風呂やオケカラでずーっと歌い続けて、向き合い続けて。ようやく人前で歌えるようになったのは、高校でバンドを組んでからですね。
かおり「固定観念を覆すために結成した、前衛ユニット“ポポリポ星人”」
そのとき芽生えた反骨精神が、中学生のかおりを奇行へと走らせたのでした…♡「周りがこうしているから、こうしなきゃいけない」っていう固定観念をぶち壊したい、「みんなもっと、自分らしくはみ出していこうよ!」という気持ちをどうにかして伝えたい!でも当時はバンドもやってないし、伝え方もわからず、まいっちんぐ益子寺状態!
それで、クラスメイトと結成したのが「ポポリポ星人」という前衛ユニットでした(笑)。
だいぶプッツンなんですけど、私、日常から自分のことを「ポポリポ星からやってきた宇宙人」だと言い張ってて……////自分で作ったヒラヒラのイチゴ柄の服を着て、鼻でリコーダーを吹き、二重奏でハモるいう、謎のパフォーマンスに行きついたんです(笑)それを文化祭のステージや学校の行事とかで披露するという……。とにかく、表現も、生き方も、洋服も「こうあるべき」っていう固定観念を覆したかったんでしょうね……なんて骨体!不器用すぎる……(遠い目)。
この頃から、ステージで何かを主張する時って、真面目に語ってしまうとおカタイ演説みたいになっちゃって、同世代の子は聞く耳をもってくれないだろうなーって思っていたので、どうにかしてユーモアを交えて、笑いに昇華して伝えたいと試行錯誤したんでしょうね……。今思えば、この謎のユニットが、私にとってベッド・インの前身のようなものだったのかもしれないです(笑)。
まい「人前で歌うのは苦手だった。でもギターが私の武器になった」
中尊寺まいさん(以下まい):「固定観念を覆したい」っていうのは今のベッド・インにも通ずるものがありますね。
私も人前にでるコンプレックスがありました。親戚でカラオケ行っても、周りの同い年くらいの子供たちは堂々と歌えるのに、私だけダメで。ピアノも習っていましたが、テストで〝かえるのうた〟が歌わなくちゃいけなくてやめたし、三味線も習っていましたが、長唄を歌う段階まで来てしまって、それが理由でやめてしまいました。音痴だから、というか、人前で歌を歌うのが苦手だったんですよね。
ただ、バンドへの憧れはあったので、ギターならできるかも!と思ってギターを選んだんです。それから、ギターは私の武器になってくれて、少しだけ自信がついたんです。ギターを持っていたら歌うこともできました。
10年間女子校生活だったので、ギターが弾ける女の子は意外と重宝してもらえて、バンドメンバーが私を必要としてくれたこと、お客さんが喜んでくれたことが純粋にマンモスうれPくて!それから、バンドが私の居場所になりました。
かおり「デスボイスでシャウトするんだったら、音程気にせず歌えるんじゃないか!?」
かおり:「やっと自分の居場所を見つけた!」っていう気持ちは、私も高校生でバンドを組んだ時に経験しました。音痴コンプレックスはこの時もまだ克服できていなかったけど、いつかはボーカルとしてステージに立ちたいという気持ちがあったので、軽音部に入って。
私も女子校育ちなんですが、初心者のガールズバンドって、スキルがないこともあって「何とな~く可愛いイキフン」になってしまいがちで……自分も最初は100%…SO!でした(笑)。それを変えてくれたのが、当時出会った近所の男子校の軽音部の人たちだったんです。
ヤリたい音楽を楽しそうに全身で演奏してるのが、彼らのライブから伝わってきて、同世代としてカルチャーショックを受けて。全力で男を謳歌している姿もカッコよくて、心底羨ましく感じました。一方自分は、バンドを始めたてで何をどうすればいいのかわからなくて、「はいはい、一年生、かわいい感じね~」って全く相手にされなかったのがすごく悔しかった。性別を超えて、彼らと同じ土俵に立ちたいって思ったんです。
それで今度は自分主導で、ヤリたい音楽をヤッてやろう!誇れるバンドを作るぞ!と、新しいバンドを結成して、朝昼晩、死ぬもの狂いで練習しました。その時に自分が好きだったのはメタルやハードコアといった激しい音楽だったので、それを女3人でやってしまおうと。そこで「あれ!デスボイスでシャウトするんだったら、音程気にせず歌えるんじゃないか!?」って気づいたんです(笑)。
さらに「ポポリポ星人」の活動を経て、自分は人前で“かわいい”を捨てた、体を張ったパフォーマンスができるぞ、と(笑)。「音痴」を逆手にとって、人とはちがうアプローチでステージに立つ、自分なりの武器を見つけたんです。しかも「女性はこうあるべき」っていう固定観念もぶち壊せる!そのバンドで、ようやく初めてボーカルとしてステージに立てました。
爆音のなかでシャウトすると、性別を超越した別の生き物…超人みたいに強くなれる気がして、ABCDE気持ちで…♡何より、ずっと一人で孤独に歌と向き合ってきたので、メンバーという信頼できる仲間と一緒にとことん好きなものを追求できる環境が嬉しくて!その時、自分の居場所はここだー!って思ったんです。
そのバンドを始めてから、憧れていた男子校の人たちにも認めてもらえるようになって、音楽について夜通し語り合うような関係性になれて。そこから一気に世界が広がりましたね。自分が本当に好きでカッコいいと思うことに対して、プライド持って真摯に向き合えば、ちゃんと人に伝わるものなんだな、認めてもらえるものなんだなって、その時初めて気づきました。そういったことを経て、少しずつステージで歌う自信をつけていった感じです。
まい「格好いいと思うことはズッポシ奥までやり通す!」
まい:社会人になってからも、DAISUKI!な音楽を続けたい、居場所を守りたかったんです。そのために、私は17時におわる仕事についたくらいで、「音楽」は欠かせない存在になりました。これが本当の〝5時から女〟ってやつで、17時まわった瞬間に会社を出て、コインロッカーに隠していたギターをとってライブハウスへ…という下のくちびるNetworkも大忙しな性活でした(笑)
でも、そのころは音楽で食べていく気なんて全くなかったんです。ベッド・インも最初はバブル文化がただただスキスキスー♡というだけで、趣味ではじめた企画バンドでしたから。
でも、その「バブル文化がDAISUKI!」っていう熱量に嘘はなくて、誰も求めていないのに自分たちで写真集を作ったり、VHSや8cm短冊CDを自主制作したり…自分たちがやりたいこと、格好いいと思うことはズッポシ奥までやり通す!っていう部分は今も変わっていません。
かおり「誰からも見向きもされなくても、好きなものはいっさい手をヌけない」
かおり:ウチら、好きなものを作るときは、いっさい手をヌけない気質なんです…♡たとえそれが、趣味やお遊びでヤッてるものだとしても、誰からも見向きもされない、陽の当らないものだとしても!
今でこそ「バブル文化」って、ナウでヤングな子も含め、誰しも知っていると思いますが、私たちがベッド・インを結成した2012年って、まだ世の中では「バブル」って言葉自体がマイナーなものでした。だけど、お互いバブル文化をリスペクトしていて「本気でカッコいい!」って思っていたので、VHSも写真集もCDも、構成や言葉遣い、デザインの細部までこだわって、君は1000%真剣に愛をこめて作りました。有難いことに、そういった部分を少しずつ話題にしてくださる人が増えてイッて……なので、好きなことを純粋にヤッていただけなので、まさかガラスの三十代になってから、音楽をお仕事にできるという夢がMORI MORIなことが叶うなんて、想像もしてなかったです!
当人がそれを本当に好きでヤッてるかどうかって、滲み出るし、伝わるものだからこそ、自分の気持ちに嘘はつかない。「誰かにやらされている」のではなく、「自分の意志をもって好きなことをしよう」。こういった信念をもって、アイドルや女性像の固定観念をぶち壊したいと活動を始めたことが、当時のアイドル界では珍しかったのかもしれませんね。
まい「“ヤりたいからヤる”のヤリマン精神が共感されているのかも?」
まい:私たちが憧れていたC.C.ガールズさんやギリギリガールズさんなど、あの時代に幅を利かせていたゲロマブなアイドルは「セクシーアイドル」と呼ばれていたので、私たちも、セルフプロデュースの意味を込めて「地下セクシーアイドル」を名乗ったんです。勝手に名乗ることで間口が広がって、今までのバンド界隈だけでなく、興味と下心を持ってくれたひとが一気に増えました。「売れたいから」「話題になりたいから」ではなく「面白そう」とか「格好いい!」っていう基準で、やってきたことにみんなが共感したり、共鳴してくれたと思っています。
中尊寺まいさん
水着を着てるのも、根源にあるのはバブル時代を熱く生きた女性たちの精神を継承したいっていうことだけ。誰かに消耗されない、ヤりたいことをヤる「ヤリマン精神」がこういう形になったのかなって。
かおり「音痴をコミュニケーションの武器にしているのがステキ」
かおり:この投稿者さんのコンプレックスとの向き合い方、とってもステキ!ハッとして、Good~!たとえ歌に苦手意識をもっていたとしても、「歌うこと」=「コミュニケーションの手段」ととらえて、武器に転換しているところがタマランチ会長ですよね♡
そう、歌って「うまい/へた」が全てじゃないと思うんです!大事MANなのは、歌を通じて自分自身が何をしたいか、だと思うの。歌に限らずですが、たとえば「人に喜んでもらいたいから」とか「褒められたいから」とか、その人にとって歌がどんな存在なのかは、人それぞれだと思うんです。
私にとって歌とは…ズバリ「伝えたいことやメッセージを世の中に発信する手段」なんです。歌うことやステージに立つことを通じて、きちんと発信したいこと・伝えたいことがあるかどうかが一番大事MANで。それがすべての根源であり、私にとってのモチベーションですね。ロンモチで、プロのミュージシャンとしてスキルや歌唱力の大切さもわかってますし、自分なりに努力もしてるつもりです。ただ、私は「歌う意味」をスキルよりも精神的な部分に見出しているから、こうしてドヤ顔で歌い続けていられるんだと思います。だから、純粋に歌のうまさだけを追求するバンドだったら、正直続けていなかったと思うし、私はきっと、ステージで歌う意味を見いだせなくなってしまうだろうなぁ。
そう考えると、表現方法が変わったってだけで、初期衝動の「ポポリポ星人」の時と根底は同じかもしれないですね(笑)「もっと人の目を気にせず生きていこうよ」、「ヤリたいこと、表現したいこと自由にやっていこうよ」ってメッセージを発信し続けたいという想いは、あのころからZUTTO変わらない。たくさん遠回りしたけど、「音痴コンプレックス」がなければ今の自分は確実にいないと思うので、試練を与えてくれた大人たち、サンクスモニカ~って感じです♡
まい「音痴はマイナスじゃない。歌を楽しめることも才能」
まい:私、実はスナックのホステスをやっているんですけど、色んなお客様がいらっしゃって、色んなクオリティで歌ってくださいます(笑)。
でも、うまい下手じゃなくて、その場にあった楽しませ方をしてくれる人は素敵だなぁと思うし、何より自分自身が楽しんで歌っている方を見てると、こちらまでハッピーになるんですよ!歌は人と人を繋ぐためにあるんだなぁって、働いているとそう思わされる瞬間がたくさんあります。歌を楽しむっていうことに対して、音痴であることはマイナスなことじゃない気がしますね。大きな声で歌うことも、音程を合わせて正確に歌うことも素晴らしいことですが、歌を楽しめることも才能ですから。