コロナウイルスの感染拡大防止のため、私が住んでいるイギリスでは、3月中旬から移動制限などを設けたロックダウンが始まっている。時間の経過とともに、少しずつ緩和に向かっているものの、6月現在でも完全な解除には至っていない。

私はもともとオンラインで仕事をしていたため、ロックダウンが始まってからも大きな変化はなかったが、夫が在宅勤務になり、毎日一緒に過ごすことになった。普段の生活でも、もともとインドア派だった私は家にいることがそれほど苦ではなかったが、それでも、以前は毎週のように行っていた図書館が閉鎖になったり、買い物の回数も減ったりするなど、何もしない時間が増えたことは確かだった。

私を満たす、清々しい早朝のフォラジングにおいしいスープとシロップ

時間ができた私は、夫と話し合い、またインターネットで様々な情報を探し、フォラジングをしたり、作るのに時間がかかるパンを作ってみたりしようかなと決めた。フォラジングとは、食用の草花やキノコ、貝類などを野生に採集に行くことを指す。

早速晴れた日に、フォラジングに出かけてみた。植物の中には朝摘みの方が良いものもあるとのことで、朝ごはんを食べた後、早々に家を出た。家から歩いて数分のところに緑が生い茂る場所があり、そこでネトルという葉とエルダーフラワーという花を見つけ、摘んでみた。日本ではほとんどこのような経験がなかったので、新しい発見に心が躍った。ロックダウン生活が始まってからも、散歩には出かけていたが、フォラジングも楽しいと気づいた。早朝の爽やかな空気に包まれ、インターネットで買った 『Food for Free』というポケットサイズの食用草花図鑑を手に、「この花はこのページのこれじゃない?」「あ、この葉ってこのことかも」と照らし合わせながら植物を探していく時間はとても楽しく、癒しとなった。

家に帰り、ネトルとエルダーフラワーの下ごしらえや料理の準備をした。ネトルはミキサーにかけ、玉ねぎやじゃがいもなどと一緒に煮ればスープが完成する。鮮やかな緑色のスープは、食べてみると意外にもまろやかな味に驚いた。また、調べてみると、ネトルはほうれん草やブロッコリーなど以上にビタミンCや鉄分を含む食材だということも分かった。そんな身体に嬉しい効能を持つ食材が身近にあり、お金をかけずに手に入れることができるということに感動した。

また、エルダーフラワーからはコーディアルというシロップを作ることができた。24時間置く必要があるが、その時間さえ「どんな変化が起きるのだろう?」という気持ちでわくわくした。24時間後にエルダーフラワーを濾すと、シロップができた。炭酸水で割って飲んだときには、その爽やかな甘さに、すっきりとしたイギリスらしい夏らしさを感じた。

スーパーで買ったパンからは得られなかった、自分で作るワクワク

フォラジングの翌日には、パン作りに挑戦した。日本に住んでいたころは、まとまった時間が取れなかったため、パンを作ったことがなかった。そのため、選んだレシピはBBCのレシピサイトに載っていた一番シンプルな白パン。レシピを見ながら作っていったが、パン作りには、特に練るときに相当な力がいることが初めてわかった。混ぜたり、こねたり、寝かして発酵させたり、そういった一つ一つのプロセスがとても楽しかった。何より、オーブンで焼かれるパンが次第に膨らんでいく様子と、そのいい匂いに思わず「パン屋さんの匂いだ!」と胸が高鳴った。焼き上がりのきれいな黄金色を見たときには、感動した。早速ランチに食べてみると、ふんわり優しい味わいが口いっぱいに広がった。気持ちの問題かもしれないが、自分で作ったパンは、普段食べているスーパーで買うパンより何倍もおいしいと感じた。

パンはどのスーパーでも簡単に買うことができるが、自分で手作りしてみると、その過程がとても楽しく、時間をかけて何かを作ることの面白さがわかった。また、使用する塩の量などを調整できるため、よりヘルシーに作ることもできる。秋になったら、ベリーやナッツなどを摘んで、一工夫加えたパンを作ってみたいと思っている。

たっぷりの時間が教えてくれた、お金をかけずに楽しむ豊かさ

今回、フォラジングやパン作りなど、日本では経験したことのなかったことに挑戦した。感染拡大防止のためのロックダウンはもちろん大変なことの方が多いが、それでも、新たな発見ができたことは自分にとって大きな財産となった。お金をかけずに楽しむことができるものがたくさんあるということに、時間ができたからこそ気づけた。コロナウイルスが流行する前は、“時短”など、忙しさを時間で解決するという流れが主流だったと思う。しかし、私はこのフォラジングや手作りの経験から、これからもお金をかけずに、お金とは少し距離を取りながら、ゆっくりと心豊かな時間を過ごしていきたい。