あまり理解されたことはないが、小学生で憲法を勉強したとき、感銘を受けた。
憲法に書いてあるから、おばあちゃんの話していた怖い戦争というものはやらないし、最低限の文化的な生活は保障されている。
この法律が、私たちの生活を守ってくれている、子供ながらにそう思った。法律というものに興味が湧いた。
そんな話をしたら誰かに弁護士さんになったらいいんじゃないと言われたので、小学校の卒業文集には弁護士さんになりたいと書いた。

12歳の少女の抱いた小さな夢は、思いの外揺るがなかった。中高一貫の私立に進学した私は、6年間、進路指導のたびに弁護士さんになりたいと言い続けた。

弟が2人いたので、中高6年間私立に通うなら大学は国立と約束をした

もちろん大学の志望学部は法学部だった。
弟が2人いたので、中高6年間私立に通うなら大学は国立ね、と小学6年生にして親と約束していた。
周りの環境もあり、自然と国立大を目指していた。
受験勉強はほどほどに順調で、志望校は、センター試験で普段通りの点数が取れれば十分に狙えるかなというところだった。

そのセンター試験が、上手くいかなかった。

自己採点を終え、模試より100点も低い点数を前に放心する私に、両親は、「志望校は自分の納得のいくように決めなさい。」とだけ言った。

大学は国立に行く。小学生の時の約束は強く心に刻まれていた。家計のためにも、どうしても私は国立に行って、両親との約束を果たしたかった。

ハッとした 法学部に行きたいと何度も聞いてもらっていたのは先生だった

気がついたら担任の先生に電話をしていた。

私よりひとまわりほど年上の彼女は、中学2年生の時に赴任してきた。最初に持ったのが私のクラスで、思い入れを持ってくれていた。

「志望校、変えようと思って」
法学部のない学校名を挙げた。

自分で決めたことなら、と背中を押してくれると思っていた。しかし先生の反応は違った。

「なに弱気なこと言ってるの!法学部に行って弁護士になるんじゃないの!私に何度も熱く話してくれた、あの想いはどこに行ったの?」

「でも弟たちのためにも国立に行くって約束したし、、」

「ご両親は国立じゃなくても、浪人しても、貴女の夢は応援してたいに決まってるでしょ」

ハッとした。両親にはあまり将来の夢について話したことはなく、きっと誰よりも、法学部に行きたいという話を何度も聞いてもらっていたのは先生だった。

先生は現在、二児の母をしているが、当時はまだ母親にはなっていなかったはずだ。その先生から両親目線の言葉が出たことは驚いたが、その目線で生徒たちを見ていてくれたのだろう。

私は、志望校を変えなかった。

色んな法律を学ぶキャンパスライフはただただ楽しかった

紆余曲折あった分、緊張は抜け落ちて、当日は気持ちよく試験に向かえた。

配点の高い英語の試験が会心の出来で、センター試験の分を取り戻し、晴れて第一志望の法学部で入学した。

毎日ポケット六法を持ち歩き、色んな法律を学ぶキャンパスライフはただただ楽しかった。

私たちの意識し切れていないところで、たくさんの法律が私達の生活を、社会を守ってくれていることを知った。

その中でいろいろな出会いがあり、弁護士になるという夢からは離れてしまったけれど、今の仕事でも法律の知識は十分に生きているし、いつか余裕ができたら、法律系の資格を勉強したいと思ってみたりもする。
毎週月曜日には日経新聞の法務面をにやにやしながら読んでいるくらい今でも法律が好きだ。

センター試験の名前は変わったけど またこの季節が巡ってきて思い出す

先生とは年賀状のやりとりはしていたけれど、産休、育休を取られていたりして、なかなか会えていなかった。

1年ほど前、有給が取れたので、結婚の報告をしようと母校の門をくぐった。
奇しくもセンター試験の翌日だった。
進路指導の担当をしている先生は、生徒さんたちから集めたセンターリサーチの資料をまとめながら、「センター試験といえば貴女ね。」と言った。

「あの時は本当にふざけるなと思ったわ。なに弱気になってるのって。」

遠い目をして話す先生の顔は、どこか嬉しそうだった。

その時は気恥ずかしくて、笑って流してしまったけれど、帰り道にもう一度思い出すと胸が熱くなった。

あの時の先生の言葉が無ければ、私は法学部を受けるのをやめていただろう。

一瞬の気の迷いで、違う学部に入り、4年間、もしかしたらその後も後悔を続けたかもしれない。

そうしたら、尊敬してやまないゼミの教授にも出会ってないし、そのゼミの先輩だった夫にも出会っていない。

そう思うと、あのひとことをもらえたありがたさに、涙が溢れた。

もうすぐ成人が18歳になろうとしているけれど、18歳の私は精神的にはまだまだ子供で、大人の道標が必要だった。

先生、ありがとう。

センター試験の名前はなくなってしまったけれど、またこの季節が巡ってきて思い出す。

感謝の気持ちは、まだ伝えられていない気がする。

コロナが落ち着いたら必ず伝えに行こう。