一度築いた関係が、様々な要因によって変化していくことは良くある事だと思う。
これは、私と元パートナーとの話。
言ってしまえば、一度恋人関係が終わってしまった相手だ。その相手のことを、今でも大切な存在だと思っている。
側から見たら未練がましいし、痛いと思われるだろう。私もそうだった。
現に今まで恋人関係になって終わっていった人たちとは一切縁を切っている。そこで思ったことや感じたこと、相手との思い出は確かに残り続けるけど、人としての繋がりはそこまでだ。今は誰一人、どこで何をしているのかもわからない。
私は切り替えのできない、格好悪い女になりたくなかった。
唯一私に共感してくれた彼に惹かれるのに、時間はかからなかった
私は彼の優しくて芯のある話し方が、言葉のひとつひとつが、大きくて少し霞んだ色の目が、すっと通る鼻すじが好きだった。そんな彼に惹かれていくのに、そう時間はかからなかった。
当時、結婚を考えていた人と別れてから数ヶ月経ち、立ち直ってはいたけれど、何となく独りでいる寂しさが残っていた。私はもう誰とも付き合えないかもしれない。そんな時に彼と知り合った。
以前の関係が上手くいかなった話をすると、大抵「もっと良い人がいるよ」「その男は損したね」「ここが悪かったんじゃない?」と、励ましや、余計な一言や、要らない助言を言われたものだ。もっと酷いと、その寂しさに漬け込むように「じゃあ俺で忘れてみる?」なんて近づいてくる人もいて、疲弊していた。
そんな中、彼だけが「辛い思いをしたんだね」と、私自身の気持ちに共感してくれた。彼も、似たような思いをした事があるからだった。
彼と話すのが楽しみで、仕事中は気付けば終わったら何を話そうかとか、あれが好きか聞きたいな、とか、彼のことばかり考えていた。そして知り合って間も無くして、私たちは恋人同士になった。
心も体も満たされていた数ヶ月間を経て、彼の、そして私の中にも疑問が生まれていった。
このままでいいのだろうか。
一緒にいれば楽しいし、癒される。でも二人の未来を想像する事が、話す事ができなかった。
私たちの恋人としての関係はそこで終わってしまった。
電話をかけても出ない。彼もまた、私の中で無かった人になる
それから数日が経ち、彼がいなくなった寂しさから少しずつ抜け出せてきた頃、帰り道で私は彼に電話をかけていた。
今思えば、拭いきれない思いに行き場がなく、彼が電話に出てしまえば少し前向きになった気持ちがまた落ちるだろうと簡単に予想できた。それでも指先は動いてしまっていた。
彼は電話に出なかった。少しだけ安堵したけど、同時に拒絶されているのではないかと思い、歩く速度は遅くなった。
出ないよな、普通に考えて。これもまたセオリー通りだ。恋が終われば関係は終わる。この人もまた、私の中で無かった人になる。そう思った。
しかし、彼は電話を折り返してくれた。
最初は少しぎこちなく、お互いの家に置いたままのものがないか話したりしていた。次第に、私たちが一緒に過ごした時間の話や、離れることになってから気付いたお互いに対する思いの話になった。
私たちは、私たちが過ごした時間を無駄だとも、無かったことにしたいとも思っていない。そしてお互いが出会えたことに対しても、心から良かったと思えている。そう思えるのは、一緒に過ごした時間が本当に満たされたものだからだった。
結果、一緒に居続けることを選ばなかったとしても、恋人同士だった時も、そしてこうして離れることを選んだ後も、自分の本心に真摯に向き合ってくれる人のことを、私は居なかったことにはしたくなかった。
彼の「いつか僕が死ぬ時、会えて良かったって思い出す人のうちのひとりだよ」と言(い)う言葉に、未練でも、執着でも、強がりでもない涙が流れた。
今思うことに忠実に。私はもう一度、この人と出逢い直してみたい
私はもう一度、この人と出逢い直してみたいと思った。そうする事ができるなら、あの時、抱えていた寂しさを無理に埋めようとはせず、ゆっくりと近づけていたかもしれない。
反面、私はあの時彼の恋人になれたことを心から嬉しく思う。彼を真っ直ぐに愛し、愛された記憶が、こんなにも美しく残るのかと思うほど、幸せだったからだ。
一度離れることを選んだから、これまでのように会ったり、話したりはしないし、できない。そしてたとえこの先、やはり自分の生活や記憶から彼を切り離したいと思う日が来ても、また同じことを彼に思われる日が来るとしても、その儚さと共に、今はこの気持ちを受け入れていきたい。
今を生きることしかできない私たちだ。
今思うことに忠実に生きたっていい。私が、私に納得するならば。